外つ歌並びに新歌集から リチャード討伐

 共和制バビロニアの産みの親、<盲目の>リチャードと呼ばれるリチャード・M・ラッセルは、のんびりと美しい踊り子に手を引かれてまた旅に出ました。

 バビロニアに残ることを選択したセトカや、大勢の人々に手を振られ、笑顔で去って行ったといいます。彼が残した巨大な業績に対して、受け取った報酬は銀貨一枚。共和制バビロニアで最初に鋳造された、万物が手を繋ぐコインを、記念品として得たと言います。


--欲がないなあ。せめてポケットに一杯の金貨でも全然良かったでしょうに。

 手を引いて歩くリベカはそう言って笑いました。手を引かれながら、遠く、まだ聞こえている歓声に、リチャードは微笑んで口を開きました。


--死んでまで財産は持って行けないよ。

--あなたは死なないよ? 面白い限りはね。私が守るもの。

--僕は思うんだが、こっちに来たとき、僕はもう死んでいるのさ。

--死んでない、死んでない。リチャードは目が見えてないだけ。ほら、右も左も麦畑。穂先が風に揺れているよ。

--灌漑に成功したのは良かった。あとは蒸気機関がちゃんと動けばいいんだが。

--あの機械うるさいから嫌い。

--奴隷を根本的に減らすにはあれしかないんだ。


 リチャードは見えない目で、共和制バビロニアの未来を見ようと目を細めました。


 その時です。リベカが剣を抜いてリチャードを守るように動いたのは。


--何が起きた?

--変な姿勢で泣いている男がいる。


 道の真ん中に立っていたのは、己の顔面を広げた片手で隠し、泣いていたケイフ先生でした。

--おお、リチャード。リチャードよ。なぜ君は歴史を変えてしまうのだ。変えなければ! 変えなければ幸せにもなれただろうに!

--何を言っているんだ?

 リベカのつぶやきを聞きながら、リチャードは頭上を大きなものが飛んでいくのを感じました。日差しが遮られて、一瞬涼しくなったのです。


--燃やしてくれ! 何もかも!

 ケイフ先生はそう言って、どこからか掘り出した手紙を破り捨てながら言いました。


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