猫の拾いもの
猫の勇者”黒毛”のコンラッドはバビロンの後事を人間に任せると、自身は一匹で旅に出ました。
もとよりじっとしていられない性格だったのです。人間の面倒くさいあれそれに付き合っていられない、という猫らしい意見でもありました。
何日歩いたか、猫なので良く分からない……というよりも気にしない……旅をへて、コンラッドはいじめられている仔犬を見つけました。
寄ってたかって若い男達が蹴って遊んでいるように見えました。
コンラッドは帽子を目深にかぶって緑色の瞳を片方隠すと、面白くもなさそうに二本の脚で歩いて、男達の尻を剣で次々刺しました。
--こんなことをするための剣ではないのだが。
とはいえ、爪や牙で殺すとリチャードがうるさそうです。コンラッドは犬を助けるとはなとぼやくと、走って逃げる二人の男達の背を見ました。
--今日は厄日だ。ヘリは落とされ、尻は刺され。
--良いから逃げるぞ、ケンジ!
やっぱり殺しといたほうが良かったかも。コンラッドはそう思った後、助けた仔犬を見ました。
仔犬はビーグルという犬でした。背中が黒くて腹と尻尾の先は白、他は茶色の犬です。ずれた眼鏡を掛けていて、ようやくそれに気づいたのか、直して自分についた足形を前脚で払って口を開きました。
--僕はたすけてくれなんて言ってないけどね。
--何をするにしても犬の許可を得るつもりはない。俺は自由だ。
それでコンラッドはまた旅を再開しました。至高女神の名にかけて、困る者を助けはするが、だからといって犬と仲良くするつもりもなかったのでした。
ところが、ビーグル犬はついてくるではありませんか。二本脚で歩くのが下手なのか、四本脚で飛ぶように走ってきました。
--待ってよ! 僕まだ全然言い終わってないよ。
--興味がない。ついでに言えば、待つ義理もない。
--僕はお礼を言おうとしてたんだよ。これじゃあ僕がただの嫌なヤツじゃないか。
先回りするように走ってビーグル犬は舌を見せながら言いました。
--別に誰がどう思おうが、だからどうした。
猫の猫たる由縁を口にして、コンラッドは尻尾を立てました。とはいえ、猫は義理を理解しませんが、情は深い生き物です。立ち止まって話を聞くことにしました。
--いいかい、もう一回最初から言うよ。
--いらん。礼は受け取った。達者で暮らせ。
--違う違う! ここからが大事なんだよ! 散歩の時にリードがないみたいなもんだよ。
--早く話せ。俺は気が短い。
--僕を家に連れて行って欲しいんだ。
--犬が迷子というのは、冗談か。
ビーグル犬は上目遣いでしょんぼりしました。猫では到底出来ない表情でした。
--僕だってそう思うよ。でも匂いをたどれないんだ。魅力的な池があってちょっと水遊びしようとどぼんと飛び込んだら知らないところに出てきたんだ!
--それと俺に、なんの関係が?
--僕はこの際猫に物を頼んでも家に帰らないといけないんだ。でないとユーラちゃんが悲しむんだよ。僕、兄弟みたいに仲がいいんだ。
--そうか。
自分にとっての至高女神のようなものであろうかと、コンラッドは思いました。まあ、至高女神ならあまり気にしないだろうが、女神でなければどうか分からんと考え直し、尻尾を振るビーグル犬口を開きました。
--名前は?
--僕、インディゴというんだ。
--茶色と黒と白だろ。
--名前は違うんだよ!
--名は体を表すと言うな。
コンラッドはそう言うと、仔犬をつれて旅を始めることにしました。
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