新歌集から 和久からカズヒサへ

 それからミズハは和久を乗せて流星のように飛び、惑星トットリの地表に着陸しました。

 砂だけはどこにでもあるんだなという和久の感想に、ミズハは笑って、大気や水があれば砂は作られると言いました。


--街のある方はどっちだ。

--あっちよ。防空圏の外に降りたから、二〇〇kmは離れている。

--そうか。まあ、二〇〇なんてすぐだろ。

--うん。すぐだよ。飛べば一五分かな。


 別れの時が近づいていました。和久は苦笑して、こんな銀色の機械と別れがたくなるとはなぁと思いました。このまま二人で仲良く過ごすことができたならとも思いましたが、そんなことができないのも、和久は良く分かっていました。彼女は戦うために作られた人魚で、それ以外に対して強い制限が掛かっているのでした。どんなに仲良くしていても、次には全部を忘れたように戦いましょうと言うのです。

 壊れているからそうなのか、最初からそうだったのかは、分かりませんが。


--壊れ者どうし、仲良くいけると思ったんだけどなぁ。

 和久はそう思ったあと、銀色の機械に感じている恋心のようなものを心の中で握りつぶして微笑みました。


--んじゃ、行ってくる。再会の合図は、どうする?

--Xバンドで挑戦信号を出して。

--なんか分からねえけど、聞けば分かるか?

--うん、分かると思う。使っているのが見えるから。

--分かった。


--勝手に壊れるなよ。ポンコツ。

--四千年も待ったのさ。壊れるわけないだろ。ちっぽけくん。


 和久は小さく頷いて微笑むと、もはや二度と振り返ることなく歩き出しました。

 何度捨てられても母親のところに戻っていた和久は、もうどこにもいません。別の星で別の人生を送ることを、自分の意思で決めたのです。


--俺は見捨てねえ。

 そう呟きながら、和久はミズハが示した方向へ歩き続けました。


 歩き続けて数週間、ボロボロの状態でヤスナガ市警察に保護されたカズヒサは、勉強がしたいんだが、どこに行けばいい? と尋ねて、大人達を驚かせました。

 警察は近隣市まで照会して保護者の捜索に務めましたがついに見つからず、和久はそのまま、養子に出されることになりました。

 新しい父母は学問に理解ある人たちで、和久は惑星トットリ風にカズヒサと名を改めて勉学への道を進みはじめました。

 近所に翼人の小さな女の子が越してくるのは、それから半年ほど先の話です。


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