新歌集から 静日を助けた変人たち

 静日が目覚めると、そこは知らない人の顔が映っていました。

--目が覚めたかい?

 静日は慌てて起き上がりました。何より先にクェースと名前を呼んで、無事を確認しようとしたのです。

 クェースは家の外で寂しそうに丸まっていたのですが、正しく声に反応して、家の壁を軽く頭突きして破壊すると、穴から姿を見せました。

--クェー……スー

 クェスがそう鳴くと、静日は立ち上がってクェースに寄って首に抱きつきました。


 声を掛けた男は、口を開けて壊れた家の壁と、壁の漆喰の粉で真っ白な粉をかぶったクェースに抱きついて小さく肩を震わせている静日の双方を見た後、苦笑いを浮かべてしばらく待つことにしました。


 それから幾許の時が過ぎたか、静日が顔を上げると、数名の奇妙な男達が静日の前に集まっていました。

 最初に声を掛けた男がうやうやしく頭を下げていいました。


--ドラゴンシンパシーなんてことざえは、伝説に聞いていても見たのは初めてだよ。僕はトーリ。<正しき竜の教会の従司祭見習い>。あそこにいるのが<馬の>ラウル。馬に乗るなんてとんでもない蛮族だよね。それでそこで奇妙な姿勢でブツブツ呟いているのがケイフ先生。で、その下に控えているのがギリシャ奴隷のゼフィリス、あと木彫りの像を掲げているのが<森に呑まれた>ジャムムと言うんだ。

--こ、個性的な皆さんですね。

--竜の首を抱いている君も大概だと思うよ。

 <馬の>ラウルと呼ばれた青年がそう言うと、静日は控えめに微笑みました。悪い人たちではなさそうでした。少なくとも、クェースに危害は与えていないようでした。それで静日は、少し安心することにしたのです。


--炎の中、君は竜に守られていたんだよ。それで僕はぴーんと来たわけさ。これぞ伝説のドラゴンシンパシーだと。

--竜って、この子がですか。

 <正しき竜以下略>のトーリは、静日にそう尋ねられて唖然としました。動きを止めているトーリに変わって、どうやらその親しい友人らしいラウルが、押しのけるようにして口を開きます。

--他に何が居るっていうんだい?

 静日はクェースの顔を見ました。クェースも上側四つの赤い目で静日を見返しました。

--蜘蛛、とか、目が八つあるから。


--確かに蜘蛛は目が八つあーる!

 不意に細かい入れ墨を身体に入れたケイフ先生が叫び出し、あわせて木像を掲げたジャムムが危ない! と叫び出しました。そのまま二人はどうどうと言われながらギリシャ奴隷のゼフィリスに連れて行かれました。

 腕を組んだラウルを再度押し返して、トーリが静日に話しかけました。

--あの先生頭はいいんだけど、世界の謎に近づき過ぎちゃったらしくて…… あ、ジャムムさんは違うよ。

--そ、そう、です、か。

--そうですよ。まあ、大声以外は無害だし、たまに役立つから。それはそれとして蜘蛛はないんじゃない? 脚二本に小さな前脚、これぞ竜だよ。まだ翼生えてないけど。

--翼! 翼生えるんですか、この子!

--そりゃあ。

 トーリの返事を待たず翼が生えるんだって、良かったねと静日はクェースの首筋に触れながら言いました。これで遠くまでご飯を取りに行けるよと。


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