グロリカとオトモネコリス
グロリカはお師さまから離れて、まだ見ぬ化け物を探しに行きました。砂漠から森へ、さらに人の訳はいらぬ森の奥へ。レーザーを自動発射する古代機械たちの目をくらませ、頭上の木々の上を渡ってそのまま走り出しました。
生き物の息吹に溢れた森は騒がしく、森もまた混乱しているのが感じられました。
--森がここまで騒ぐのはなんだろう。人がついに古代機械に勝つような兵器を作ったのだろうか。
グロリカは頭を振りました。古代機械はグロリカから見ても進んだ科学技術で作られていました。おいつくのは1000年単位でかかりそうです。それ以外にあるとすればお師さまのような魔術師でしたが、ああいう魔術師は古代機械を倒したがらないというのを、今のグロリカは知っていました。
--森にはこんなに生き物がいるのに、寂しい。
お師さまは話好きではなかったけれど、それでもいるといないでは大違いだ。グロリカはそう思うと、悲しい気分を追い払おうと思いました。
しかし、すぐに失敗しました。もとよりグロリカは、寂しがり屋だったのです。そんなことも忘れていたと、グロリカはまた悲しみを積み重ねました。
延々と続く森の中を走りながら、唯一無くさなかった思い出を抱きしめるように目を下に向けて、好きだったアニソンを歌おうとしてそれを忘れている事にも気づきました。
どぶ川の横を好きな男の子と歩いたのが遠い昔のよう。いいえ、本当に遠い昔になってしまった。
グロリカは泣きそうになりながら木々の枝を飛んで渡り、もう涙もでないと、その事実を悲しみました。
--自分がやってきたことは正しかったのだろうか。どこかで野垂れ死んだ方が良かったのでは。
グロリカは森の隙間から見える空を飛ぶ渡り鳥から、方向を正しく判断するとまた走り始めました。人間の力は長距離走にあるとお師さまに教わり、今では三日三晩走り続けることもできるようになりました。
--帰るために魔術師になった。修行した。でも、それで?
あの人はもう16歳になっているだろう。高校生だ。高校生といえば、大人だ。自分がまともに話せる気がしない。恋人だっているかもしれない。
走りながら泣きそうになっていると、森を渡るネコリスが併走してグロリカの肩に乗りました。すりすりしてにゃんにゃんちゅーと言いました。
--心配してくれているの? ありがとう。
グロリカは自分の髪に隠れたりもこもこの尻尾を出して振ったりしているネコリスに微笑みました。お師さまが派遣してくれたのだろうかとも思いましたが、ネコリスは喋れないので真相はついぞ分からないままでした。
ネコリスはお話を食べる動物、だっけ。グロリカは師の教えを思い出しました。詩人の獣、もしくは語り部の獣というくらいにネコリスは吟遊詩人や小説家の側に現れるという話です。大作家の晩年ともなると無数のネコリスがベッド脇に整列して、進んで作家の魂を世界門へ運んでいくのだとか。
この特性はネコリスにしかなく、ネコリスの近縁種であるトラリス、ヒュージネコリス、メガネコリスなどは普通に桃や梨を食べるということでした。
--でも、私には語るお話なんか何もないよ。ごめんね。
グロリカの言葉にネコリスは気にしてないよという風に二本脚で立って尻尾を振りました。
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