新歌集より ヨシュアと瞬の対話
ヨシュアが瞬を殺すために動くよりに先に、老猫のメドレーはミサキの手を噛んで機先を制しました。
痛いと言ったミサキにヨシュアと瞬の意識は向いて、それで殺気が少し和らいだのでした。
--なんだ。猫か。
ヨシュアの言葉で、瞬は翻訳を頼まれていた人物が目の前の人間であると気づきました。反りが合わないとは思いませんでしたが。
--どこから来たのですか。
瞬が言うと、ヨシュアは目を見開いて瞬の顔を見ました。
--人間の言葉が分かるとは。
--我々を人間扱いしない、という思考はどこから来たのですか。それは誰かから教わりましたか?
瞬はそれで、大体の時代を比定するつもりでした。
ヨシュアはため息をつくと、猫を撫でて、ミサキの指に優しく触れました。
--効くといいのだが。
ヨシュアは聖骸衣の破片を入れた短剣の柄をミサキの小さな傷口にあてると、祈りの言葉を唱えて小さな光を放ちました。
傷口が瞬く間に塞がるのを見て、瞬が眼光を鋭くする中、ヨシュアは瞬を一瞥しました。
--人間ではないものは人間扱いできない。言葉が分かるなら、なぜ無礼な振る舞いをする?
--名乗れというのなら、私は佐々木瞬です。大学で古い言葉を研究しています。
--聖書を学ぶ妖精もいる、ということか。問おう。なぜ聖書を学ぶ者が妖精の巫女を抱えて走る。
ヨシュアは光の槍を短く持って、瞬に向けました。ミサキが慌てて間に入ろうとするのを、顔を険しくして止めました。むしろ、背中に掴まっている猫二匹ごと、誰にも奪われぬよう小脇に挟みました。
--妖精? 僕たちが?
瞬は苦笑しました。自分たちが彼を指して妖精と呼ぶならまだしも、なぜそうなったと。
--妖精でなければなんだ。
--人間ですよ。肌の色の違う人間がいることは貴方も知っているはずですし、それ自体を差別的に扱うということはまだない、と思いますが。
--まだ、という言葉がおかしい気もするが、彼女を差別的に扱ったことはない。
--荷物のように小脇に挟むのが? へぇ。
瞬の言葉に、ヨシュアはミサキをお姫様抱っこしてにらみ返しました。ミサキがぎゃーとか騒いでいるのを無視します。
--こうするとこのように奇声をあげるのが妖精の習慣だろう。そもそも君も、そうやっていた。
--彼女はなんでって言ってるんですよ。あと、言葉が通じるんだ。良かった、と。
ヨシュアは苦虫を茶碗一杯口に含んだような顔をすると、ミサキを見て少し頷き、また口を開きました。
--人間はこう言うときに、怖かったとか、家が壊れたとか言うのだ。他人の心配をするような者は人間ではない。聖者か、聖母か、妖精だけだ。
--なるほど。信仰外の友好的な存在に便宜上与える名誉職みたいなものと認識します。
--一々引っかかる物言いだが、私はこの地を襲う竜と戦い、今まさに悪魔をも討伐したところだ。感謝しろとは言わないが、礼儀は保つべきだろう。失礼する。
心の中で竜が面白そうに笑うのに怒りを抑えながら、ヨシュアはミサキを危険な男から離しました。
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