神との戦い

 戦いは絶頂のさなかにありました。

 相克を繰り返し、腕を増やし、武器を生やし、ついには一〇〇ヤードを超えるまでに強く成長した神のなりそこないが生き残って今まさに、リベカとコンラッドと戦おうとしてたのです。


--リチャード、どうやって勝つの?

 羊の角を生やした人工の神を前に、のんびりした様子でリベカはリチャードに尋ねました。言う通りにしてやったぞ、どう責任をとるのだ、というそんな響きがありました。

 セトカによって説明を受けたリチャードは、少し微笑んでいつも通りに口を開きました。

--リベカやコンラッドが勝てないくらい、というのは大変な物だ。利用しない手はない。倒す前に利用しよう。

--自分が神になるんじゃなく?

 リベカの質問に、リチャードは真顔で首を横に振りました。

--僕は神になるような男じゃない。女神や女王に忠誠を誓う、というのなら若干面白そうではあるが、自分が神になったら女性を引き立てられないじゃないか。紳士として失格だ。

--リチャードが誰かに忠誠誓うようなら、私、殺すからね。

 リベカがそう言い返すと、リチャードは不思議そうに首をかしげました。

--ふむ。何故だろう。

--面白くないから。リチャードは自由に滅茶苦茶言っているほうが面白い。私ね、この世界が大っ嫌い。だからリチャードが好き。リチャードは私の知っている世界を壊すから。でも、もしそうでないのなら。

--用済みというわけだね。

--私をただ働きさせたヤツは皆そう。

--なるほど。気を付けよう。

 リチャードはどんな心の動きも見せずに気楽に言うと、あさっての方向を見ました。

--まず、人工の神を使って塔やら街やらを破壊させる。


 リチャードは髪をなでつけると、リベカとコンラッドに逃げるように指で指示をしました。

 コンラッドとリベカはえーという表情を浮かべたあと、走り出しました。


--あの男は邪悪な香りがしないのに、邪悪そのものだ。

 コンラッドは四本脚で塔の中を走って逃げながらそう言いました。隣で走るリベカは苦笑して、頷きました。

--本物の邪悪って、悪意はないのかも。

--哲学的だな。猫としては理解できかねる。


 コンラッドとリベカは同時に左右に飛んでシープホーンの攻撃を避けました。シープホーンの三つ叉の矛は石組を破壊して塔の一部を倒壊させました。


 一方リチャードは使者をやって、人工の神が暴れていると報告し、これの責任を現政権に押しつけて処刑させると各勢力を糾合、一つにまとめて軍隊として組織しました。


 コンラッドを頭の上に載せてリベカが塔を降りきったときには、数万の兵が戦列を組んでいました。


--やっぱり神になるんじゃないの?

--誰かのために戦う事は良いことだ。だがそのために存在するというのは大間違いだ。違いが分かったら男爵くらいにはなれる。

 輿に乗って軍勢を指揮するリチャードはそう言いました。

--ところで数万の援軍を用意して見たんだが、これならあれに勝てるんじゃないか?

--勝てそう。


 リベカは笑うと、剣を腰から抜きました。踊り子ではなく、生まれながらの指揮官のようでした。

--やってみる。指揮権を私に渡して。

--どうぞ。



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