新歌集から 遠回しな愛の告白

 艦を含む一つの系、戦闘兵器として作られたミズハには、戦争を嫌う和久の気持ちが分かりませんでした。実際のところ、全く分からなかったのです。そこを曲げては兵器として成立しないのですから当然でした。

 ミズハは粘り強く戦いの意味や意義を語り、和久もまた粘り強く戦いの弊害や無意味さを語りましたが、どうにもわかり合えませんでした。

 しかし、別れがたかったのです。ミズハは和久を気に入っていましたし、和久もミズハを気に入っているようでした。


--しょうがねえなあ。戦ってやるよ。

 そう和久が言ったとき、ミズハは心から喜びました。和久を抱いて、惑星の周りをくるくる回るほどでした。これで自分も和久も幸せになれると思いました。


 地上に降りて、それからミズハは、和久と一緒に色々な話をしました。

 空のこと、一緒に戦ったこと、お互いの悪口も言い合いました。でも和久もミズハも、それが本気でないことは、お互い良く分かっていました。

 どこまでも砂の地平線からあがる太陽を見ながら、ミズハと和久はこれからの話をしました。

--どんな戦いがいいんだ?

--全力の性能を使う戦いに決まってるでしょ。

--お前の本気に付き合える技術なんかどこかに残ってるのか?

 和久に言われて、ミズハは困りました。そこは敵である和久が考えるのではないかとも思いましたが、和久への親愛が勝ってしまい、ついアドバイスすることにしました。

--この近くだともう一つ、近くにN系の惑星があるわよ。そこはまだ文明退行がここまで進んでないみたいだけど。まあ、対消滅すら手放して化石燃料くらいだけどね。でもここよりはいいかも。

--どこだ、その惑星って土地。

 ミズハは頭上を指さしました。

--あそこ。N5。トットリと言うの。

--点にしか見えないな。

--すぐ近くよ。

 二人はそう言い合った後、互いを見ました。和久はどこか面白そうに笑っていました。

--んで、そこで俺はそこで武器拾えばいいのか?

--んー。どうせなら新しい武器と戦ってみたいかな。時代遅れの兵器でも想定外のものなら案外戦えるものよ。

--新しい兵器を作る、ね。一〇年かそこらでできるものやら。

--四〇〇〇年待ったんだから、これくらい待つわよ。N5に連れてってあげる。トットリって言う名前なんだけど。あ、同じN系だから言葉には困らないと思うわよ。

--へいへい。他には?

 急にミズハは黙って、カメラアイを素早く動かしました。


--ありがとう。嬉しい。

--ほんとしょうがねえな。お前みたいな機械と違って人間の一〇年は長いんだぜ。もっと掛かるかも。

--大丈夫、和久ならなんとかなるわ。私、信じている。

 和久は愛の告白を受けたような顔をしたあと、ため息をつきました。


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