ユードラへの手紙

 没落貴族の邸宅で働いていた事を思い出すと、ユードラは今も腹立たしくなる時があります。それは不可避的に盲目の貴族の顔を思い出すからです。


--不幸を哀しんでいれば殺してやったものを。情けにすがるなら優しくしてやったものを。それでなくても優しければ慈悲の一撃を叩き込んだものを。

 眼差しを見ることができないはずなのに、リチャードの眼差しを思い出したような気になってユードラは再度腹立たしい気分になりました。あの男伊達ときたら、どれとも違った。傲岸不遜の英国貴族。まさにジョンブル。

--違う。傲岸不遜ではなかった。少なくとも人間相手では。あれほどどんな立場の人間相手にも礼儀正しいのは見たことがない。

 それを滑稽と笑えたらどんなに幸せだったことか。だが実際は、息を呑んでいた。自分にも向けられていた念入りに隠された優しさの微粒子に気づいた時には胸にときめきすら覚えた。

 だから野垂れ死させた。いや、生き残るとは思っていた。あの人なら、例え地の果てでも最後の一瞬まで自分らしく生きるだろう。

--それが、それが、何故こうなる。何故私の人生にもう一度関わろうとする。

 敵対組織であるエースの、海法と高原からの連名の手紙を受け取ってユードラの手は震えました。

 ユードラはもはや袖を通すこともないと思っていたが毎日手入れを続けていたチェインバーメイドの制服を完璧に着こなすと背筋を伸ばし、仮面の娘を連れてバビロンへ急ぎました。

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