砂漠の飛行前点検
まだ蜃気楼も立たぬ時間帯、砂漠の滑走路に大学の研究のために貸し出された浅い後退翼を持った戦闘機が引き出されてきました。
電源車に繋がれ、バブルキャノピーを開いた姿は起きたばかりの様子に見えました。
カズヒサは機体周辺を目視確認した後、機体下部に取り付けられた補助ロケットブースターを入念にチェックしました。このブースターをつけるために機体の強度も見直され、補助桁が入れられてエンジンブロック周りは一回り大きくなっていました。これに伴い機首との段差が出来るため、整形フェアリングがつけられていましたが、この部分だけ塗装がされておらず、奇妙な印象を与えていました。
--あんた学生さんかい?
ひょっこり顔を出したパイロットスーツ姿の青年がそんな事を言いました。
--研究生です。テストパイロットの方ですよね。今日はよろしくお願いします。
カズヒサが返すと、微妙な笑顔でパイロットは機体を見上げました。
--主翼まで取っ替えちゃって、これ、大丈夫なのかね。
--大丈夫ですよ。翼端を伸ばしてあるので前より操縦性は上がってますし、境界層板もつけてます。速度性能も上がってるはずです。
--常識的に言って翼は短く小さい方が空気抵抗が減って速度出るんじゃないのか?
--音速近くでは翼端失速に境界層剥離が起きます。今回の改良はそれらに有効です。
--理屈通りに行けばそうなんだろうさ。
テストパイロットは疑り深く、臆病なほと慎重であるほうが良いとされています。そういう性格でないと墜落事故を起こすためです。この点、話しかけてきたテストパイロットは中々優秀そうでした。
カズヒサは微笑んで名前を尋ねました。
--名前は……言わないで置いてやるよ。俺が落っこちて死んだ時、名前知ってたら何年も嫌な気分になるからな。
--大丈夫ですって。朝日が昇り出しましたね。
朝日がバブルキャノピーを輝かせました。
飛行実験は朝が定番です。
気温が低く、その分大気密度が高くなって離陸が容易だからでした。逆に昼間の離陸では装備を減らして軽くする必要がありました。
翼の表面に発生する気流の動きを確認するために翼にたくさんのリボンをつけた戦闘機をもう一度見て、テストパイロットはため息をつきました。元の機体を知っているだけに、大きく形が変化した事を危なっかしく思っているようでした。
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