人里に出た竜

 いつものように森を抜け出して、静日はクェースと草原を走り出しました。

 いつもと違ったのは、畑広がる人里近くに出てしまったことです。これはまったく、静日にとって歓迎できぬ事態でした。

 クェースに出会う前に人間に追いかけ回されたせいか、静日は人里を嫌っていたのです。同時にクェースが人や家畜を食べたら嫌だなあと常々思っていたせいでもありました。


--急いで離れよう。

 静日が言うと、クェースは不思議そうな声をあげて抗議しました。クェースにとって、静日と同族の人間は怖いものではなく、畑も家も家畜も珍しいものでした。

--お願い、離れて。

 左手で背を撫でながら静日がいうそばから、農夫が腰を抜かしていました。


--りゅ、竜だ! 竜の幼生体がいる!

 悲鳴のような声が農夫から上がった瞬間、雷に打たれたように周囲に悲鳴と恐怖が伝染しました。

--ち、違います。この子はそんなんじゃなくて……


 静日が一本しかない手を振って声を掛けるよりも先に、クェースが農夫を口でくわえて持ち上げて、立たせました。農夫はそのまま白目を剥いて倒れました。

 不思議そうに尻尾を振るクェースに、静日はだめぇと叫んで背を揺らしました。


--竜の光が出ていない。今ならまだ殺せる! 武器を持ってこい!

 別の農夫が叫んでいるのを聞いて、静日は泣きながらクェースに森に帰ろうと呼びかけました。


--竜使いを殺せ。

 その声に気づいた時には何本の投げ槍が静日を貫こうと飛んできていました。


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