体色と食べ物
片腕の娘、静日はトカゲだったクェースとともに二日で一回のペースで森から森へと移り住んでいました。
この頻度が適切かどうか、絶対の自信があるわけではありませんでしたが、静日としてはそれなりの根拠も自信もあってのことでした。
自然環境を持続的に利用可能なように、回復可能なレベルで狩猟を行う。それが静日とクェースの生存戦略でした。
--というよりも、王様の務めよね。
赤い瞳を閉じてすりすりするクェースを撫でながら、静日は言い聞かせるように言葉を続けました。
--クェース、森で一番強くて一番食べるあなたは、王様よ。王様には良い王様もいれば悪い王様もいるわ。
クェースは首をかしげたあと、それは食べれるの? という顔で静日を見ました。ゆっくり尻尾を振っています。
静日は左手だけで腕を組んだ真似をすると、考えながら口を開きます。
--ただ食べるだけは悪い王様だと思う。強い力がある、ということはただ生きるだけも許されないんだよ。きっと。だって何もしなければ自然環境が壊してしまうからね。そうするとクェースも困るでしょ。
クェースは尻尾を上下に振りました。静日は複雑な光を湛えた紅鋼の身体を撫でました。
--自然の環の中に入って、その一員になるような王様になれるといいね。自然のバランスを取って、全部が良くなるような、そんな存在にクェースがなれるといいなぁ。
クェースは任せろという風に口を開けてその奥にある太陽の輝きを見せました。しかし、ちょっと匂うので静日によって森のハーブを山ほど食べさせられました。
すると翌日にはクェースは表面が緑っぽくなっていました。これは静日にとって、ちょっとショックな話でした。
--食べ物で色が変わるんだ。
でんぐり返りして自分の身体の色を確認しようとするクェースをなだめながら、静日は何色になるのが良いのかなあと考えました。
というよりも、むしろこの子は草食にだってなれるかも。
試しに草を食べさせてみると、あまりおいしくなさそうですが食べてはいました。ただし、食べる量は膨大で日に100t近くを数えました。草原一つを簡単に消す上に一日中食べている状況でした。
--んー。ダメか。農業やって穀物とかあげるのならカロリー数が多いからいけるかもしれないけれど。
木々を食べることも考えましたが、育成年数を考えると、静日はそれが良いとはとても思えませんでした。
--やっぱり肉食かなあ。
静日が考えあぐねる間にも、クェースは日々、大きくなりました。一月ほどで全長7mほどになり、後ろ足でもっぱら走るようになり、前足は小さなヒレ状になっていました。
--トカゲじゃなくて恐竜だったか。この形、なんていってたかなあ。
クラスの男子ならすぐ言えそうな名前を出せず、静日はもっと勉強しておけば良かったなあと思いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます