新歌集より バビロンの戦士達
元気な妹弟、セトカを目の代わりにして、リチャードは戦況の把握につとめていました。
--コンラッドとお姉兄、生け贄を助けた。
--すぐに敵の増援が来るだろう。脱出するために塔を目指そう。
--え? 街から出るんじゃなくて?
驚いたセトカに、リチャードは微笑みました。
--逃げると言うことは敵に対応する時間を与えると言うことだ。少数なら逃げるよりもそこの国の特権階級を倒したほうが速い。古代にはたくさんの例がある。まだ常時警備体制が整ってない時代だ。いけるさ。
セトカは呆れた声をあげました。
--リチャードは何人かの生け贄を助けるために国を滅ぼすの?
--違うな。生け贄を助けるのは僕の趣味だ。だから生け贄のために、じゃない。僕の趣味のために国を滅ぼすのかが正解だ。そして僕は、僕の趣味のためにいくつか国が滅びるのはまったく仕方がないと思っている。
リチャードの説明に、セトカはため息。
--リチャードの方がずっと悪い宗教みたいだよ。
--宗教ではないな。もう一度いうが、僕の趣味だ。いい話をしてあげよう。セトカ。事を起こすのに自分という主体を消すことほど悪いこともない。それは要するに、責任放棄で、責任逃れだ。それでは指導者になれない。
--好き勝手に国を滅ぼすのはいい指導者なの?
--国民のために、とか、お前のためだ、という人間よりは余程いい。少なくとも誰も騙していないし、責任の所在もはっきりしている。
セトカは長いため息をつくと、リチャードの手を取ってコンラッドやリベカのもとへ向かいました。
--助けたけど、次は?
リベカが尋ねるのでリチャードはセトカに説明したこととすっかり同じ事を話しました。
セトカが注意深くリベカの表情を確認していると、リベカは何がおもしろかったのかどんどん上機嫌になってリチャードに絡むように抱きつくと、頬を突きました。
--で、今度は私に二度目の王殺しさせようってわけ? その報酬でリチャードくんは何を払うのかな?
--払うものは何もないな。今のところは。ツケにしておいてくれ。
リチャードは堂々と言いました。
--悪くて勝手な男。んー。私が殺した兄さんもこれくらい強引だったならぁ。
--これは僕の知り合いの言葉だが、強引な男は悪い男らしい。
--リチャードは悪い男?
--自覚はないな。気にしたこともない。
--でしょうね。まあ、やってあげる。お礼は夜に払って貰うね?
リベカはリチャードの肩に回していた腕をまっすぐ伸ばし、剣を迫り来る兵に向けました。
僅か一刻しないうちにリベカとコンラッドは兵士たちの半分を打ち破り、残る半分の一を敗走させました。生け贄達は死んだ兵から武器を奪い、リベカとリチャードに向けて剣を振り上げて鬨の声をあげました。
そのまま空中庭園に向かって突撃し、どんどん上層に向かって戦い出しました。
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