バビロンの英国貴族
盲目のリチャードは、元生贄たちに武器を取るように言うと、死にたくなければ戦いなさいと告げました。
頷き、武器を取る生贄たちに微笑みかけ、リチャードは歩き出しました。
--二人と一匹で国一つは大変かもね。
軽く言うリベカに、リチャードはそうでもないさと言いました。
--さあ、それではとくとご覧ぜよ、だ。世界に冠たる七つの海を征服する、帝国のやり方をね。
そしてリチャードは塔の階段を上りながら、矢継ぎ早に使者をばら撒いては思うように人を操りだしました。王を暗殺したらバビロンの王の座をやると言って王の外戚が様子見するようにし向け、独立を保障すると言って異教徒を動かし、奴隷身分から解放すると気前よく約束して奴隷たちの蜂起を誘発しました。
これこそ大英帝国のお家芸、外交力、徒手空拳の身ながらリチャードはリベカとコンラッドの尋常でない戦闘力を担保にしてあらゆる譲歩と協力を勝ち取り、塔を上りきるわずかな間にバビロンの諸勢力をばらばらに空中分解させていきました。
--バビロンのあちこで火があがっている。
--そうか。だがそれはちょっと古いニュースだね。
笑いもせずにあさっての方向を見ながらリチャードはそう言うと、セトカに手を引かれて階段を上り続けました。
--リベカ姉兄ちゃんも大概だけど……この人も、滅茶苦茶だ。
セトカは化け物を見るような目でリチャードの横顔を見ました。
その間、コンラッドとリベカは階段を駆け上がりながら襲いくる兵士達を続々と眼下に突き落としていきました。数十人も突き落とすと兵士は恐れてもはや立ち向かうことなく、そのままついに最上階でアル空中庭園に上り詰めました。
--空中庭園はどんなところだろう。結構楽しみにしていたんだが。
リチャードののんびりした声に、セトカは寒気さえ覚えましたが、それはそれとして今は力強いと、口を開いて説明することにしました。
--空中庭園は神を作る工房に作り替えられているよ。二〇か、それくらい神のなりかけがいる。流れ作業になっているみたい。
--工房というより、工場だね。神を作る工場。どんなものだろう。
--まだ竜の光を使えない竜を捕まえてきて、檻に捉えて羊と人間を喰わせ続けるんだ。するとどんどん竜は人型に変わっていく。黒くなったり金色になったりするね。最終的には王を食べさせて、王を神にする。
--なるほど。君たちにとって、それは許される行為なのかな。
--許されるかどうか、関係ないんじゃない? 全部はリチャードの好き勝手なんでしょ。
--まったくもってその通りだ。神の量産など、僕の趣味ではない。離婚という自分の都合のために新しく教会を作る国の人間にとっては、神は遠くにあってうやまうものだ。近くに居て貰っては困る。天罰が下るからね。とはいえ、セトカやリベカが嫌がるなら、方法は考える。
--殺していいよ。ここは俺の街じゃないし、俺の街は俺の妹を殺して俺の男を切っちまった。なんならこの世の神を全部殺してもいいよ。
--ありがとう、ありがとう。では気持ちよく命じよう。神を皆殺しにしようじゃないか。
--どうやるのさ。さすがの私でもあれは手に余るよ?
リベカの声に、リチャードはにやりと笑いました。
--二〇もいるんだろう? お互いに争わせて残って弱った者を殺せばいい。
リベカとセトカは互いの顔を見合わせました。セトカが口を開きました。
--神よりも竜よりも、リチャードの方が怖いよ。
--目を悪くする前はよく言われたよ、弟に。
--そいつ殺したの?
--いや、日本という地の果てに飛ばしたんだが、どうも恨みを買ったみたいでね。
さもありなんとセトカが納得する間に、リベカは檻を結ぶ鎖をを次々と剣で叩き折り、神のなり損ない同士を戦わせました。
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