カズヒサの分かれ道

 抜けるような青空には雲一つなく、不毛な土地だけは有り余っているのか、基地の境界を示すフェンスはいつまでも続いていました。

 滑走路には本国ではとっくに退役した旧式戦闘機がタキシングを行っており、大学の面々はおーと、声を上げながらそれを見ていました。

 車が右折し、誰何のあと門に入ります。門にはゲートガードとして、遺跡から掘り出された人型戦闘兵器がしゃがみ込んだまま飾ってありました。

--昔はあんなもので空が飛べると信じていたらしいよ。

--飛べると思いますよ。

 カズヒサが言うと、周囲は爆笑しました。

--機体重量に対して比推力が十分にあれば、翼なんかいりません。

--さすがロケット研究家

 周囲はまた笑いました。カズヒサは言い返すこともなく苦笑すると、眼鏡の下で優しい目になって、ゲートガードを見上げました。


 割り当てられた宿舎につくと、アビーが真っ先に走って行きました。鳥人妻にとっては二人の愛の巣というのは比喩表現でなく、手伝おうとしたカズヒサは邪魔と言われて外に出されてしまいました。

 頭を掻いてしかたなく、同じく作業をさせて貰えない教授のもとへ歩いて行きます。


--しかし空軍さんは、よく大学の研究なんかに付き合う気になりましたね。

--彼らにも打算があるのさ。官僚組織として基地にまつわるポストを減らしたくない空軍は、この基地の維持を続けるために何らかの理由を欲しがった。まあ、その理由の一つが我々というわけさ。

 老教授はそう言って笑うと、カズヒサを面白そうに見ました。

--完全に尻に敷かれてるね。

--どうもそういうやつばっかり好きになるみたいです。

--ふむ。その法則性は新婚家庭では言わない方がいいだろうね。

--経験ですか?

--いや、科学的思考というやつだよ。

 教授とカズヒサは笑うと、昼でも明るく輝くN6を見ました。


--ところでカズヒサくんはなんで大学に入ったんだい?

--約束があるんですよ。そのためにはまず、機動力の高い機体が……いや、速くて遠くまで飛べる機体が必要なんです。

--ふむ。


 老教授は忙しく窓を開けて掃除と片付けをしている銀髪のアビーの姿を見ました。

--なるほど。

 カズヒサはそれについて何も言いませんでした。


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