人魚の分かれ道
熱砂の砂漠の中で、一人と大太郎法師が悪口の交換会をしていました。
一人の方はワイルドな少年の和久、大太郎法師のほうをミズハと言います。
少年の方はまあ、よく見かける人間の不良少年として、大太郎法師はとても珍しい、今ではもうすっかり見なくなった人型の艦載機でした。それは大きさはわずか一五mほどの銀河系最強兵器の一つであり、コンパクトにまとめられた銀に輝く本体内に永久不滅のエネルギーである縮退炉と自己改良用の兵器生産工場を内蔵した、戦争のために人魚達が産み出した芸術品でした。
--つまり私は超兵器ってことよ。言い合いから最終戦争までできるってすごくない?
--へー。どうでもいいけど眩しいなお前。
--は? この迷彩すら必要としない美しい肢体を眩しいと? 確かに。
--目がチカチカするから離れろって言ってんだよ。
--これだから文明を受け入れない人間は! 目にサングラスくらい内蔵しろ!
--武器で脅しても無理だぜ。俺には恐怖がない。それが俺のことざえだ。もって生まれた、能力ってやつだ。
--そんなの危ないだけじゃない。恐怖感ないと死傷率跳ね上がるんだよ。待ってね、二〇〇〇年前くらいの論文に確かそういうものが。
--心配すんなって。
--心配してない! あんたに瑕疵があるって言ってんのよ!
--うっせえな。そろそろ一〇kmだ。休まないでいいのか?
ぶつぶつ言いながらミズハは休むことにしました。新たに換装した脚は、歩くのに向いていなかったのです。砂漠の真ん中に膝をつき、できた影の下に和久はシートを敷いて休みました。
--あーあ、こんなことなら陸戦型の脚にすればよかったなぁ。
--っていうか、なんでお前ついてきてるんだよ。
--私と君が戦争するために決まってるでしょ?
--戦争は嫌いだ。
--前の防空塔をぶっ倒したような汚い戦争じゃない、お互いを高め合うような戦争よ?
--……それでも戦争は嫌いだ。悪いな。他を当たってくれ。
和久はそう言って黙ったミズハを見上げました。このやりとりも何度目か。そのたびにミズハは黙ったあと、しばらくすると性懲りもなくまた戦争をしようと言い出すのでした。
この沈黙は、ミズハは悲しんでるんじゃないか、和久はそう思うことがあります。
--なあ、なんで、戦争なんかやろうって思うんだ?
--戦争は技術を発展させるわ。戦争は少子化を阻止するわ。戦争は組織を強固にし……
--そういうのじゃなくて、お前の、ミズハの動機。ミズハが戦争したい理由。
--話したら戦争してくれる?
--考える。
和久が言うと、ミズハはバイザーとフェイスマスクを開いて美しい素顔を見せました。
--私は戦争のために作られたから。
--そうか。んで、戦争のために作られてない俺を巻き込もうってわけ?
--……それは……だって……久しぶりに人間に会ったし……話してくれるし。
和久は長いため息をつくと、ミズハを見上げて優しい表情を向けました。
--しょうがねえなあ。戦ってやるよ。でもすぐじゃダメだぜ。俺はただのガキで、お前は凄い超兵器だ。
--うん。待ってる、ずっと待っている!
和久は参ったねと仕方ないの中間のような笑顔を向けました。
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