新婚の鳥乙女

 元鳥乙女、今鳥人妻のアビーが船から降り立った場所は、中海を越えた場所にありました。緯度は大学と同じくらいだったのに、随分と乾いて、そして熱く感じたのは、ここにほとんど植物がないためでしょう。一説によれば、大昔に祖先が植物を植え損ねてそのままになってしまったのだとか。


--こんなところにも人が住むのね。

 アビーが呆れた声で新夫カズヒサに言うと、人間のカズヒサは眼鏡を指で持ち上げながら苦笑しました。どうも夫も同じことを思ったようでした。

 同じ事を思ったのが嬉しくて、夫の腕を取って笑顔になっていると、周辺の大学の男達がばたばたと倒れていきました。何事か重大なダメージを受けたようでした。


--どうしたの? 皆。

 男達は何も答えず、カズヒサを恨めしそうに睨むばかり。アビーはとっさに翼で夫を隠しました。

 慣れっこな感じで、カズヒサは優しくアビーの羽を撫でました。

--アビー、なんで翼広げたの?

--視線から隠したくて。あの人達怖い目でカズヒサを見ていたわ。

 カズヒサは遠い目をした後、アビーに耳打ちしました。

--大学の皆は結婚がうらやましいんだよ。

--だったらすればいいんじゃない? 結婚。

--それが簡単にいかないと皆思っててね。僕でもできるよと言ったら、皆あんな感じさ。

--きっと幼なじみを大事にしなかったのね。カズヒサだってぎりぎりだったのよ、多分。だからもっと大事にしなさい。毎日愛してるって三回は言ってね。

--はいはい。

 アビーの翼の中で、二人で額をくっつけて笑っていたら、周囲の男達がばたばたどころかずさーと砂が風で飛ぶような音で崩れていきました。それで二人は慌てて顔を出しました。


 一番最後に船から下りてきた老教授が面白そうに手を叩いて皆に言いました。


--さあ、こんなところで油を売っている訳にはいかないよ。空を飛ぶためには滑走路に行かなくては。荷物をトラックに乗せたまえ。

 男達がにわかに復活してカズヒサに変顔したり舌を見せたりして去って行きました。カズヒサも追ったのですが、すぐ男達に返されました。


--手伝わないでいいの?

--新婦の世話しろってさ。

--私がカズヒサの世話してるのに?

--まったくだね。哲学的な問題だ。まあ、考え事しているよ。今回は試作機工場がついているところだから、結構色々な挑戦ができると思う。

 アビーはふうんと言った後、やっぱり私の世話をしてと、指でカズヒサの脇腹をつつきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る