新歌集より 草原を走る
長い脚で地面を蹴って、森を一瞬で駆け抜けて、静日を乗せた銀のトカゲだったものは草原に出ました。
二つに分かれた長い尻尾で前後のバランスを取って二本足で走る姿は、もうトカゲとは言えません。静日は残った左腕でトカゲだった何かにしがみつき、ご飯のある所にと言いました。
トカゲだった何かは頭悪そうに口を開けてクェーと鳴くと、すごい勢いで走りはじめました。
何も考えてなさそうな相棒の走りは、静日にとって久しぶりに胸のすく経験ではありました。滑走する飛行機のような素早さで風景が流れていきました。
--地面に落ちる雲の影より速いよ。いつかはキミは、この世のどんなものよりも速くなるのかもね。
静日の言葉をどう思ったか、トカゲだった何かは上面四つの赤い瞳を動かして静日を見ました。静日にはそれが楽しそうに見えました。
--キミに名前をつけなきゃね。どんな名前がいいかなあ。オウサマ? それとも赤い流星?
トカゲだった何かはクェーと鳴いた後、口を閉じました。口から漏れる空気がスーと聴こえて、静日はその口の動きを真似ました。
--クェース?
トカゲだった何かは紅鋼の身体を揺らして楽しげに静日の真似をしました。一人と一匹はクェースと言い合って笑いました。
静日は意を決し、身を起こして脚の力だけで我が身を支えると、左手で紅鋼の背を優しく叩きました。
--クェース。キミの名前はクェースだよ。いつかは誰よりも速いクェースになるの。
おまけのようについている左右の小さなヒレを動かして、銀のトカゲだったクェースは楽しげに草原を駆け抜けて行きました。静日の髪がすごい風に揺れていました。
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