ヨシュアと竜の会議

 ヨシュアが話をしてみたところ、竜はとても若いような気がしてきました。何故そう思ったか考えて、なんでも分かるぞというこの自信満々の様子が若く見えるのだと思い至りました。

--自分もそうだったのかもしれない。

 ヨシュアはそう思いました。あの泉で、自分の顔を見るまでは。

 若いのではないかと思い直して眺めると、竜の身体はまだ傷痕を持っていないように見えました。歳を経たドラゴンは無数の傷痕を宿すものです。それでヨシュアは自分の考えが正しいと知りました。だからといって状況は少しも変わりませんでしたが。

 いっそ戦ってしまおうか。とも思いました。

そもそもヨシュアは考える事が苦手でした。けっして頭の回転が遅いほうではありませんでしたが、深く考えるより戦う方が早いと思い切りの良い性格だったのです。

--しかし。戦って勝てるとは限らない。

 ヨシュアは人間としては一人で一〇万を超える軍勢を打ち破るほどの破格の強さを持っていましたが、竜と比較するとかなり分の悪いものでした。竜に勝てるのは伝説に出てくるような異形の英雄ばかりでした。

--ではどうする。戦わずして、この口下手がどう竜を追い返す?

 竜は八つの目をヨシュアに向けました。

--なにを弄しているのか知らぬが、無駄だ。素直に話すことだ。さあ言え、何を狙っていたのだ?

--そもそも竜よ。なぜ妖精の国を攻撃する? 彼の地には、信仰すら広まっていないというのに。

--お前たちの考える信仰と我ら竜の行動にはなんら関係性がない。

 竜の説明で、ヨシュアは竜が狙いを定めずはかいをしている事を知りました。

--まさに悪魔だな。

--自分の定義から外れれば皆悪魔か?

 竜の言葉を聞いてヨシュアは腹を立てましたが、一方でそれもそうだなと思うところはありました。それこそ人を堕落させる悪魔のやり方だと思うところもありますが、妖精を認めて竜を認めぬのも公平ではないと思い直し、竜を見返しました。

--なるほど。竜は悪魔ではないというのだな。

--七つの螺旋にそんなものはない。あるのはそういうものがあると信じたい者、そう呼ばれて不当だと反論しているのに納得しない輩がいるだけだ。

--しかし竜は国を焼く。なぜだ。食べるでもなく、信仰とも関係ないのなら、なぜ焼く。楽しみでやるのならそれこそ悪魔の所業ではないか。

--竜は世界の護り手だ。

--世界とは国のことか、

--世界という概念もないのか……。世界とは過去現在未来の三世、東西南北上下の界、合わせて世界と呼ぶ。お前たちが作る集団としての国もの中の一部だ。

--その区分でいけば地上全てか。

--海や宇宙も含まれる。ふむ。力はあっても無知か。

--竜が知らねば無知というのなら、それこそ悪魔の定義となんら変わらぬ。

--ふむ。確かにその通り。

 ヨシュアの指摘に竜はあっさりと自らの非を認めました。

--ならば教えよう。教えた上で納得し、しかるのちに我に教えよ。その後彼の地を焼く。

--だから! 何故世界を焼く!

--あの地は汚染されている。世界門が機能しなくなっていて情報以外のものが行き来を始めている。じきに、他の世界も壊し始める。今なら一部を焼くだけで良いかもしれぬ。早く焼けばそれだけ復興も早くなるだろう。

--その門だけを何故壊さぬ。

--その門から流れ着いたものもまた、世界を壊す。例えばそれはお前だ。騎士よ。

 ヨシュアは妖精の家の庭にある、自分が出てきた小さな池を思い出しました。

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