森々の王様

 銀のトカゲは食欲旺盛で、止まるところを知りません。静日が気付いて記録を取りだしたところ、一日に4000kg程の肉を食べていました。それどころか、毎日その数字は増えていました。


--このままでは森の生き物全部を食べてしまいかねない。

 静日は学校の授業を思い出しました。あまり真面目にやっていなかった数学と理科の授業をなんとか思い返して得た事は、一度壊れた生態系は容易に戻る事がないという事。そして計算で肉の消費量や捕食する動物たちの繁殖量は計算と計測で簡単に想像できるという事でした。

 静日は残った左手でへろへろの線を地面に書きながらイノシシが成獣になって子を残して、どれくらいの時間が必要かを概算しました。

 不意に涙が出ました。ただこれは悲しみの涙ではなく、学校がこういう時のために静日に勉強を教えていたことに気づいたからでした。一体どれだけの生徒がこんな目にあうのか想像もできませんでしたが、現に静日は学んだ知識を持って生き抜こうとしていました。

 知っている何もかもから引き離されたと思っていたけれど、そんな事はなかった。日本はこの身の中にある。

 心配して寄って来たと思われる銀のトカゲの頭を撫でで、静日は銀のトカゲの上面四つの赤い瞳を見ました。

 きちんと計算ができているわけではありませんでしたが、森の王様である銀のトカゲが生きていくためには、広大な森が必要そうでした。

--森の王様どころか森々の王様なんだね。

 静日は王冠もかぶってないトカゲの頭を再度撫でました。

--遺憾ながらこの森は放棄する。分かる?

 銀のトカゲは小さく口を開けて、口の中に太陽の輝きを見せました。それで静日はにこっと笑って、明日にはここを出て行こうと思いました。

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