新歌集より 竜の言い分
どことも知らぬ場所にヨシュアは降ろされました。雪をいただく山の頂上付近で、見渡す限りまた別の山が見えました。
竜は口を開いて言いました。
--では話せ。
ヨシュアは大いに笑いました。人生最後かも知れぬと思えば自然と声は大きくなりました。その後、光の槍を出現させ、竜に突きつけました。
--もはや話すまでもない。戦うまでだ。竜よ。
--戦うのはいつでも出来る。だが生き物の命は短い。たとえ。騎士よ。お前のような化け物でも。
化け物はどちらだと思いましたが、思えば同じ人も化け物と呼んでいたことを思い出しました。竜の言うことに耳を貸しては行けないと知ってはいても、自然、口元が歪みます。
--ならば教えてやろう。竜よ。そなたがここに連れてきた時、すでに私の目的は果たされたのだ。ここならば妖精たちにも被害はあるまい。全力で相手をしてやる。
--その話は嘘だ。
いきなり嘘だと竜に言われてヨシュアは鼻白みました。
--どういうことだ。
--その理屈で言えばここにも生き物は沢山いる。
竜は周囲を見ました。
--故郷でもない場所を守るというなら、こことあそこになんの違いがある。
--それは。
妖精がいるではないかと言いかけてヨシュアは黙りました。言葉も通じない娘を思い出して恥ずかしかったのもあり、確かにこのような辺鄙な場所に修道院があってもおかしくはないと思ったのでした。
--竜には分からぬ。
ヨシュアがそう答えると竜は幾つもの瞳を開きました。
--竜以外に分からぬ事はあるかもしれん。だが竜に分からぬ事は無い。
--なぜそう言い切れる。
--竜に生み出せぬものはない。
竜は背中から出来の悪い人間を生やしました。
--お前と全く同じものを背中から生やす事は出来る。中身までも。竜は全てなのだ。だから分からぬ事などない。情報入力してあとはこの生やした人間の部分で演算すれば良い。
--悪魔め。神の御技を真似るか。
--お前の神が竜ではないとなぜ言い張れる。気づけ。お前は人間より竜に近似に近似している。おそらくお前はどこかの竜が戯れに……
黙れ! と、ヨシュアは叫びました。自分の父母すら討っておきながら、竜から生まれたと信じたくなかったのです。
--黙れ。竜よ。お前には分からぬ。決して。
--話してみよ。
竜は言いました。自信たっぷりと。
--人同士ではあるいはそうかもしれぬ。だが我は竜だ。お前は竜を知らぬのだ。
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