新歌集から 小さな出会い
夢では、ありませんでした。
静日は顔をあげると、遺跡の奥で動き出したロボットのようなものの姿を見ました。
鳥や獣がいないのは、そのせいかと静日は状況を他人事のように眺めました。
もう立ち上がる気力もなく、死を待つしかありませんでした。
白い狐が現れて、袖を引っ張っても静日はもう動けませんでした。いえ、動けなかったのです。
ロボットのようなものは腕から光を発しました。
次の瞬間、光は分散して霧消しました。
小さな、一キュビトに満たない銀色のトカゲが間に入って空間歪曲防壁を展開したのです。
トカゲはそのままロボットに噛み付くと、ばりばりと食べ始めました。
静日が震えているとトカゲは特に罪もなさそうな顔で尻尾を降ると、丸まって前脚を組むときらきらした八つの瞳で静日を見ました。
白い狐が泣いて必死に袖を引っ張るのを頭を撫でて、静日は自分で選び取るように意識を無くしました。もう、死んでもいいやと思っていました。
いったいどれくらいたったのか。目が醒めてもトカゲは微動だにせず、静日を見つめていました。壊れているのか死んでいるのか、少し寄ったら瞳を動かしたので、静日は慌てて離れました。
トカゲは、緩やかに尻尾を振るだけです。
そう言えば白い狐がいません。
--もしかして、食べちゃった?
静日が涙目で尋ねると、トカゲは首をかしげました。
それから静日は起き上がりました。空腹と喉の渇きに耐えかねたのです。死は受け入れられても、渇きには耐えられませんでした。
半ば後ろから撃たれる事を望みながら背を向けてよろけながら歩くと、トカゲも一緒について来ました。二本の足で横に並んで静日を見上げました。
--お水はどこか知らない?
反応はありませんでした。まあ、それはそうかと静日は特にがっかりもしないで歩き出しました。
数歩歩くとまたロボットが現れました。次はトカゲの方が早く動いて静日をがへたり込むより先にロボットを食べました。
食べ終わるととっとこ戻ってきて静日を見上げて口を半分開けました。
--そうか、私を利用して、餌にして餌を取ってるんだ。ん? 餌にして食事を取っている、かな。
まあ、どうでもいいかと静日は歩きました。しばらく歩けば今度は大きな獣が出てきました。
トカゲはこれも噛み付いて食い殺しました。
骨を砕く音を聞きながら、静日は流れる血と肉を見て腹をさすりました。自分でもまさかこんなものが美味しそうに見えるとは夢にも思いませんでした。
トカゲは静日を見上げると、少し場所を開けました。
静日は喉を鳴らして、それで初めて獣の血を啜り、肉を食べました。そうして少し渇きが癒えると、自分の境遇に涙しました。
トカゲはそれも見上げていました。
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