対竜のヨシュア

”殲滅のヨシュア”

”死の騎士ヨシュア”

”地獄への導き手ヨシュア”


 ヨシュアは妖精の国に来てからずっと、自分に投げかけられた呼び名の数々に縛られていました。事あるごとに投げかけられた悪意を思い出し、苦しむようになっていたのでした。


--正義のため、人々のために戦うのに、何故、そう言われなければならないのか。

 かつてのヨシュアならば、悩みもしなかったでしょう。投げかけられる言葉に耳も貸さなかったはずです。

 しかし彼は知ってしまったのです。

 言葉の通じないところでも、人間が相手でなくても、信仰が違っても、文句を言われてしまうことに。

 良かれと思って馬のいない馬車数台を潰した結果、妖精族の巫女ミサキに怒られて、ヨシュアはその事実を知ってしまいました。

 お前に安住の地などはない。そう言われた気になりました。


--敬虔に、ただ敬虔に神の教えに従ってきたはずなのに、何故。

--それとも私は神の教えを間違って受け取っているのか。


 それからヨシュアは一日の半分を祈りを捧げて暮らすことにしました。いつか、答えが分かるのを信じて。

 敵もいない妖精の国で騎士としての鍛錬を再開し、言葉も分からずただ一人。鍛錬に鍛錬を積みました。


そして、その日。


 ヨシュアは妖精の国に来てからずっと、自分に投げかけられた呼び名の数々に縛られていましたが、大地のことごとくを焼き払おうと飛ぶ竜の姿を見て、その呪縛がほどけた気がしました。

 自分と変わらぬくらいの悪評が空を飛んでいる。それがおかしくてヨシュアは笑いを浮かべました。それはおそらく、生まれて初めてヨシュアが見せた笑顔でした。


--思えば私も竜も、似たようなものだったか。

--いや、だが私は、竜ではない。私が違うと思うから、違うのだ。これから違うことを示そう。


 夜空に向かってそう継げると、ヨシュアは片膝をついて妖精の巫女ミサキの手を取ると、ゆっくりと告げました。


--私も、竜とは数えたほどしか戦ったことがない。ここまで接近を許してしまえば、もはやこの国は終わりだろう。竜の吐く火球は水平線の向こうまで一撃で焼き払う。


 ヨシュアはそう説明しましたが、妖精の巫女ミサキはさっぱり分かっていない様子でした。ただ恥ずかしそうにしているだけです。そしてそれは、ヨシュアの予想の範囲内でもありました。


 それでヨシュアは微笑むと、立ち上がり、口に太陽の光を宿す竜を見ました。


 もはや馬も鎧も佩剣すらありませんでしたが、ヨシュアは騎士の誓いを忘れたことはありませんでした。


 真理を守るべし。教会、孤児と寡婦、祈りをささげ、かつ働く人々すべてを守護すべし。


 異教徒や妖精は守護の対象だろうか。ヨシュアは瞬間そう思いましたが、すぐに微笑みでそれを消しました。

 かつて彼の佩剣には異教徒の暴虐に逆らい神に奉仕するすべての者の保護者かつ守護者になれかしと祝別がされていましたが、その剣が消えた今、その部分を守る必要もあるまいと思い直したのでした。


 十字を切って神の言葉を言祝ぐと、聖なる光の槍が手の中に現れました。


--この手に槍が現れた事が、神の許しだろう。

--御心はここに。ヨシュア、参る。


 続く神の言葉で跳躍力をはね上げるとヨシュアは東京都北区十条から東京都墨田区押上まで三歩で飛んで、東京スカイツリーの上で光の槍を回転させました。

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