大禍日のヨシュア
ヨシュアは一人、商店街の中にある小さなキリスト教会で熱心に祈っていました。初めてここに訪れたとき、ヨシュアは涙を流して手を合わせたのでした。
今では午前中の間祈りを捧げ、その後にミサキの家に戻っては鍛錬をし、そして夕闇が迫ると屋根の上に登って星々を見るのでした。
--こんにちはー。うちの外人、居ませんか?
--いらっしゃいます。
お昼近くになるとミサキがヨシュアを迎えに来ます。拾ってきた猫の世話をするごとく、ミサキはよくヨシュアの面倒を見ていました。
教会の牧師さんはミサキの声など聞こえないように祈るヨシュアの姿を見て、少し悲しそうな顔をしました。
--なんか、悪いことしました?
--いえ。ただ思うのです。なぜああも熱心に祈りを捧げていられるのかと。
--やることなさそうなんですよね。テレビも見ようとはしないし。
牧師さんは首を少し振ると、口を開きました。
--宗派が違う、というよりも、東西分裂前の古い教えを奉じていらっしゃるのかもしれません。
--へー。
立板に水という様子でミサキは頷くと、ヨシュアの肩を激しく揺らし始めました。
--今日は素麺って言ったでしょ? 分かる?
ヨシュアは少しだけ眉を落とすと、首を横に振りました。何を言ってもだいたいヨシュアは首を横に振るのです。ジーンズ姿のミサキはため息のあと、ヨシュアの手を引いて家に帰るのでした。
その日の午後、教会から電話連絡が来ました。忘れ物したかなぁとミサキが電話に出ると、ヨシュアの言葉が分かる人がいるかもしれないという連絡でした。
おー。神様に外人の祈りが通じたのかなとミサキは思いましたが、祈りが通じたというよりも、教会の関係者や信者がなんとかしてやれないかと手を尽くした様子でした。
まあきっと、良い事よね。それでミサキは何でも放り込んでいるイナバの物置からはしごを取り出すと、自宅の屋根に登ってヨシュアの元へ近づきました。
いつも通り、彼は夕日に背を向けて夜空を見上げていました。
--言葉が分かる人が見つかったみたいよ。良かったね。あと、今日はカレーだって。
言葉が通じなくても、ミサキはヨシュアに良く喋りかけていました。これも猫の扱いと同じでした。猫だってたまに頷くので、ミサキはそのうち言葉が伝わるのではないかと考えていました。
ヨシュアは端正な顔をかすかに歪ませました。信じられないというような目と顔。
--どうしたの?
ドラコ、というつぶやきが聞こえてミサキはんーと。夜空を見ました。大きな翼を広げた月よりも大きなものが、飛んでいるのが見えました。
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