新歌集から 超水平線射撃戦

 ミヅハノメノカミは流星のような速度で大地に近づくと、膨大な逆噴射で落下速度を殺して着地しました。

 逆噴射で焼かれた砂が溶けてガラスのようになりました。今でもこの跡は砂漠の果てで見る事ができます。


--彼の射程距離は三〇万km、対して我は九〇km。

--桁違いに一方的に殴られるってことか。

--宇宙空間ならそうかも。でもここは惑星上だ。


 ミヅハノメノカミは長い鉄砲を塔の方角へ向けました。


--惑星は丸みを帯びている。その丸みを利用して水平線の向こうから攻撃する。敵の攻撃は光線兵器と時空兵器、つまり直線的な攻撃しか出来ないから私たちの方が一方的に攻撃できるってわけ。


 ミヅハノメノカミは少し間を置いて、操縦槽内に声を入れました。


--卑怯って思う?

--勝たなきゃしょうがねえだろ。

--そう、勝たなきゃしょうがない。敵国人にせよ、惑星間移動手段もない住民の虐殺をただ見ている訳にはいかない。それは武器を取る姉妹の誇りに関わる。


 急に操縦槽内の照明色が変わりました。赤から緑に。


--650mm砲による実体弾攻撃に移行します。現在重力計測中。


 少年の基準では長すぎる鉄砲を向けて、ミヅハノメノカミは膝をつきました。


--650mm砲分離弾薬式で弾薬は九発ある。

--見えないところに弾を撃ち込むとして、どうやって当てるんだよ。

--衛星ない、観測子機は使えない。他の僚機もいない、だから、データリンクは使えない。でも。


--それらがない大昔だって戦争はあった。正面砲戦開始、teee!


 一発目の射撃で空を飛ぶ鳥たちが衝撃波でことごとく落ちました。砂漠の砂が何年も消えないほど衝撃を大地に刻みました。吹き上がる砂は何千キュビットに及び、砂の中にいた生き物はその場で破裂し、全滅しました。


 三分後。遠くの空が明るくなりました。禍々しい明るさでした。


--受動計測中。データ分析中。敵は時空兵器で防御しているみたい。でもそれのおかげで空間のゆがみから彼の位置は暴露されているし、こちらの弾が敵の位置からどれくらい離れていたか分かる。

--どうやってその時空兵器を超えるんだ?


 ミヅハノメノカミは答えませんでした。

--第二射、teee!


 第二射が行われて三分。遠くの空は暗いままでした。ミヅハノメノカミは少し明るい声を入れました。

--命中した。

--でも空が明るくなってない。

--そう、時空兵器が我の弾を他世界に転移させた。つまり危害半径内に実体弾が到着したということ。

--で、どうやって時空兵器破るんだよ。

--六発同時にたたき込む! データ、そのまま、第三から第九射、teeeeee!


 少年は戦争って頭が悪いんだなと理解しました。


 角度を変えながら連射した実体弾はそれぞれ違う放物線を描いて同一地点に着弾。高い軌道の実体弾は光線兵器の破砕され、低い弾道の弾は時空兵器で消されました。しかし。


 時空兵器は連続使用できませんでした。実体弾は都合三発が塔に命中し、600mより上の高さの構造物を叩き折り、吹き飛ばし、そして周辺の街を吹き飛ばしました。


--勝った……のか。

--勝った。でもこれが良い戦争だとは思わないで欲しいな。

--何言ってんだお前。

--やっぱり戦争は合意の上でルールを守ってやるべきだよね。ということで、ちっぽけくん、色々教えてあげるから私とちゃんと戦争しよう。楽しいよ。

--もう一回言ってやるけど何言ってんだお前。

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