合体!変形! ミヅハノメノカミ
闇夜を突き破るように青い光線が放れた時、くはし大太郎法師は大楯を地面に突き立てて構えて、少年を守りました。
次の瞬間には、擱座したいくつもの舟が吹き飛び、蒸発し、大気は瞬間的に大量のオゾンを発生させました。
--何この悪臭?
少年は飛び起きた瞬間にオゾンにやられて吐き気を催しました。
くはし大太郎法師は意味不明の機械音声を流すと首を後方九〇度に転倒させて少年を機体内に収容しました。恐怖を覚えるほど狭い操縦槽の中で少年が息を飲むと、直後に清冽な空気が少年に向かって吹き出されました。
--息を吸って。軽度の腐食なら治癒できるから。
--息が止まったのは胸打ったからだよ。
くはし大太郎法師は舟の外板を外すと、外界を視察しました。遠くに、くはし大太郎法師と同じくらいの年齢の塔があって、そこから青い光が無差別に放出されていました。
--やくさいかづちのかみ……。
--なにそれ?
--オゾンだね。紫外線レーザーを含む大規模な光線兵器が使われた可能性が大。どうやら私の敵がまだ生き残っていたみたい。
--ケンカしたかったってヤツ?
--私がしたかったのは、たぶんこんなのじゃない。
これじゃ虐殺だよ。
くはし大太郎法師は銀に輝く鋼の巨体を翻すと、楯を取ってロケットを噴射しました。
--敵の照準装置は壊れているみたい。これならピンポイントアタックで環境負荷低めで倒せるかも。
これまで使用していなかった四基のロケットを加えて合計六基のロケットで、くはし大太郎法師は大跳躍を連続させ始めました。瞬く間に光線をくぐり抜け、楯で防御しながら塔に向かって前進していきます。
揺れる機体の中で俺を巻き込むなと少年は叫ぼうとして、言うのをやめました。やくさいかづちのかみという空気毒から自分を守っているであろうことは、考えなくても分かりました。
--表示の通りにシートベルト着用して。
--今やった。
間一髪で特大の衝撃、否、熱線がくはし大太郎法師を襲いました。発生した熱風が機体を揺り動かすほどの力を発生させていたのです。
熱戦を受けた楯が自壊し、瞬時に発泡化して蒸発しながら熱を逃がしました。楯を捨ててくはし大太郎法師は、大幅に軽量化、本来の速度性能を出すとロケットの燃焼をリフトオフモードに切り替えて背の炎を橙から青へ、青から白へ変化させて飛蝗のように大地を跳びました。
--歩くのに向いてないのは、跳ぶためなんだ。
くはし大太郎法師はひときわ高く飛ぶと塔の頂点で狂ったように光線を発する何かを見ました。
胸部装甲下に並んだ八門の大小レーザー砲のレンズを対物対装甲モードに変更。全門照射、地面着地、また跳躍。塔はいささかも傷ついてないように見えました。
--レーザーが効いてない!
--こっちのだした光なら、歪んで消失してたよ。あっちこっちに。
--時空兵器!?
--何それ。
--条約禁止された連続世界破壊兵器。防御にも使えるけど。
不意に機体が姿勢を崩しました。操縦槽の中で少年は上に下に壁に押しつけられて目を回し駆けました。
--コントロール回復。脚が吹き飛んだ。
--痛い?
--痛くはないけど。これじゃ近づけない。そもそも武器がない。簡単な時空振動でも
塔から再び光が発せられました。ひび割れた大地が焼け、地面に何万キュビットに及ぶ巨大な裂け目ができました。
--このままじゃ、周囲が大荒れだ。
--どうにかならないの?
--大気圏外に無人タンカーはあるけど……
--それなに?
--空に補給所があってそこで武器を補給できればなんとか。
くはし大太郎法師はしばらく通信しました。
--今通信している。無人タンカー高度低下開始。対気速度マッハ二六。ダメだ、弾道飛行しても軌道が合わない。
--どうしてできないんだよ。
--様々な要因があるんだけど、端的に言って向こうの速度に対してこちらが遅すぎる。
--速くすればいいじゃん。
--そうは言うけどね。重量軽くするなら半分くらいにならないと。あ。
腰からの脚部を分離、投棄してくはし大太郎法師は上半身だけを飛行形態に変形させました。
--脚なんて飾りですよ。忘れてた。でも上半身だけしかないから、今度は速すぎるかも。あと軌道が安定しない。
--両手を広げてバランス取れない? 綱渡りの時はそうしているけど。
--あのね、そんなトリッキーな運動はプログラムになってないし、そもそも飛行は綱渡りじゃ…… あ。
警告音が鳴り響きました。少年の目に映った画面表示は、この先、完全手動、危険。引き返せ。
--警告を無視して右手の左手の再度スティックに手を当てて。
--当てた。これからどうするの?
--こっから先は、私だってやったことない。祈って。私には宗教ないから。
--俺にもないよ。
--じゃあ、人魚を信じて。
少年は一瞬えーという顔をしましたが、すぐに機体をタップしました。
--あてになるのはお前だけだぜ、ポンコツ。
--仕事しろよ、ちっぽけくん。HUDに高度計と彼我の軌道予想を表示した。表示された三つの十字の印を合わせてくれればいい。
--分かった。
--後、私の名前はミヅハだから。
少年が口を開く間もなく、くはし大太郎法師ことミヅハは、音声をかぶせました。
--マニュピレーターを翼代わりに、機を左に寄せながらバランス調整、ロケット出力は脚のフットペダルで調整する。
--分かった。
--チャンスは一回だけよ。
少年は返事をしませんでした。目に汗が入るのも無視してサイドスティックを動かしてフットバーを蹴っ飛ばしていたのです。
機体が突然速度を上げました。膨大な距離の開きが一瞬で縮まって行きます。
--こんな無茶な操艦? というかマニューバしたのが分かったらお姉さん達怒るだろうなあ。
--謝るくらい一緒にやるって!
人魚は何も言わず、別の事を音声回路に流しました。
--ビーコン、拾った。タンカーからBパーツ分離。合体して、うまくいかないと末期の試作兵器みたいになっちゃう。
背後の赤い光をバックミラーで見ながら少年は息を止めて機体を操りました。衝撃とともに速度がさらに上がりました。
--合体成功。でも時間が掛かりすぎた、武器を手に入れるのが大変になる。タンカーを墜落覚悟で降下させるからドッキングして受け取って。
--一度できたんだ、もう一回できる!
速度をさらにあげて高度上昇、地面からの砲撃をバレルロールで回避しながら少年は顔を上に上げました。
天地が二度逆転してタンカーの腹が見えたのです。
タンカーとドッキングする瞬間、少年はなぜ人魚が人魚なのか分かった気がしました。タンカーが宇宙と空を泳ぐ美しい魚に見えたのでした。その仲間なら、確かに人魚なのだろうと。
タンカーが空気の圧縮熱でバラバラになる瞬間、人魚は華麗に脱出しました。長い鉄砲と新しい楯を持っていました。頭部の一つ目をバイザーごと引き上げて、本来の美しい顔を見せました。
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