魔術の教え

 グロリカが森を離れるとすぐに、古代の防御兵器達が動き出してグロリカを狙って動き出しました。

 なぜ人間の手に荒らされず、貴重な森が自然のままにあったのか、グロリカは意味を悟りました。


 転がってきた巨大な金属の円盤を必死に回避したグロリカの前で、円盤が変形して人型に変わりました。大人四人くらいが縦に並ぶくらいの、それくらいの大きな巨人でした。


 円盤を避けたとき、グロリカはこれまでの修行に意味があったことを唐突に悟りました。木々から木々を歩いたことも目を開けて飛んで受け身を取ることも、この時のためにあったのです。


 私はばかだ。大ばかだ。


 巨人が迫るのを見て、グロリカは目を閉じて痛みを耐えようとしました。



 次の瞬間、固い金属音がして巨人の拳が空中で停止しました。

 グロリカが目を凝らすと、巨人に何本ものの糸が伸びていました。


 あれは、空中に浮かぶための……。


--呪文などはいらぬ。それは甘えだ。

--本物の魔術師は、呪文などいらぬ。ことざえも必要ない、星々の世界を行く技術も、必要ない。ただ最強であるためにそんなものは必要ない。

 青の魔術師は体格をグロリカをかばうと、巨人の前に立って静かに言いました。


 次の瞬間、巨人の振り下ろされた拳を己の拳で迎撃し、ただ一撃で巨人の腕ごと粉砕すると、青の魔術師は頭巾を取ってグロリカを見ました。


--魔術は膨大な努力の中で湧き上がるただの腕の一振りだ。ただの人間の不断の努力が到達した、ただの人間ではとてもたどり着けないどこかだ。そこに魔法はない。だが魔法はあるのだ。努力したから。ただただ研鑽を積んだから。術士の人生と努力を知らぬ物だけが、それを魔術と軽々しく呼ぶ。


 青の魔術師は編んだ長い髪を首に巻くと初めてファイティングポーズを取りました。もはや体格の差も武器の差も、これから蹂躙される材料にしかすぎないように見えました。


 傲慢、圧倒的な傲慢を感じさせる、巨人に向けられた魔術師の手の甲。


 巨人の目から飛び出た光線を華麗に飛んで回避して、爆風を足場に二段跳躍して首筋に乗ると青の魔術師は首のメンテナンスハッチを蹴って吹き飛ばすと爆薬を投げ入れると内部をばらばらにしましました。


 華麗に着地し、グロリカの顔を見て師は言いました。

--グロリカ、今目の前で起きたことは魔術に見えないか。

--いいえ。これこそが魔術です。


--そうだ。

 青の魔術師は言いました。


--踊るように舞うように、生きねばならぬ人間もいる。魔術を学びなさい。グロリカ。誰もたどり着かない場所に自分の足でたどり着き、何事もないような顔で君臨しなさい。我らに努力自慢は似合わない。それが我らの生き方だ。

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