新歌集から 色々台無し至高女神
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ご注意:この話は(第二話)建国記、(第一一話)殲滅のヨシュアのあとにお読みください。(第六話)猫の勇者コンラッドとも若干のつながりはあります。
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マオは耳をピンと立てて、それでなくても丸い目を丸くしました。
「なによー、久しぶりなんだからそんな顔しなくてもいいでしょ?」
マオを抱き上げた瞬間、美咲の家の庭にある、申し訳程度の小さな池が水柱を立てて爆発しました。
わー。ざんしーん。と、猫のマオを抱いたまま、美咲は思ったとか思わなかったとか。
次の瞬間、驚いてキッチンから出てきた母に(逃げ出さないように)マオを預けると、美咲は庭の窓を開けてつっかけに足を入れて外に出ました。
池から上半身を突き出すようにして目を回している金髪の男の人を見つけたのです。
「あんた猫の次は不審者まで拾う気!?」
「猫拾ったのは小学生の頃じゃん!」
母に言われて美咲はそう言い返しました。とはいえまあ、何を言われようと拾うには拾うのです。なぜなら美咲はそういう人物なのでした。困っていたら種族を問わずとりあえず保護するのです。
「えー、大丈夫? てか、日本語分かりますか?」
「美咲英語で喋りかけて!」
「あんたの娘がそんなハイスペックなわけないでしょ!」
「大学行かせてます!」
ほぼ漫才のような親子のやりとりが耳に届いたのか、長いまつげを揺らして、ヨシュアは目を覚ましました。
--ここは。
「英語ぽい!」
「救急車!」
--蛮族……蛮族の精霊か、それとも蛮族の巫女なのか。なんだここは。
ヨシュアは青空なんだけどはっきりしない日本の空を見上げました。ヨシュアの故郷では見る事ができない、水蒸気を大量に含んだ青すぎない青空でした。
「救急車は通訳じゃありませんて言われた!」
電話から戻ってきた母の報告に、美咲はどうしようかと目をさまよわせました。英語。そう、英語。英語の勉強はじめて小中高で八年、今九年目でしたが、美咲は英語がまったく使える気がしません。
「オーケーオーケー、日本語でいきましょ? ここ日本だし」
美咲は無駄に元気で言いましたが、ヨシュアの口から出た聞き慣れない言葉で、もうダメだと思いました。
「落ち着け、美咲、なにかあるはず。はっ」
美咲はそう言って自分を慰めると、母が大量にため込んでいる新聞のチラシとペンを持ってきました。英語はともあれ絵には自信があったのです。とりあえず引くほど良くできた世界地図を書いて、ここ、と日本を指し、あなたどこから来たの? と、ヨシュアに油性ペンを渡しました。
ヨシュアは整った顔を僅かに驚きで歪め、ついで紙を眺め、ペンを珍しそうに見て、書き込めることに衝撃を受けて美咲に向かって何事かを言いました。
当然美咲は何も分かりません。ヨシュアは言葉が通じないどころか地図という概念もないところから来たのでなおさら何も分かりません。
美咲の母は猫を抱いてドラマの再放送を見るためにリビングに戻りました。家事はともかく、それ以外にはちっとも頭を使いたくない人なのでした。
「えーと」
残された美咲は頭を掻いたまま、まあ、いいかととりあえずヨシュアの手を引いて家の中に入りました。妙に筋肉がついているとは思ったのですが、それ以上は特に考えもしませんでした。
それでどうなったかというと、ヨシュアは美咲の家に居候することになりました。美咲の母はやっぱり拾ってきてるじゃないと言いましたが、特にそれ以上は何も言いませんでした。
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