殲滅のヨシュア
眉目秀麗な騎士というだけではヨシュアは有名にはならなかったでしょう。
真面目なだけではヨシュアは母親が子供を諭す時に名をあげることもなかったはずです。
ところが現実は、ヨシュアは大変高名な騎士として世界中に名を轟かせていました。それも、とても良くない意味で。
元を正せばヨシュアは割と普通な貴族の子ではありました。
美人の妻を何代にも渡って娶ってきた王家の血を引く母を持つ以外は、これといった何も持たず、貴族の子として自ら軍事を修め、騎士として自らの領地のため、家の領地のために戦う事が期待されていました。
ヨシュアは生まれよかったせいなのか、真面目に、疑うことなく騎士の修練を積み、従者から騎士見習いへ、騎士見習いから騎士になったといいます。
この時点では、頭の固いやつだ、教条的なヤツだという噂程度でした。
はっきりと、親族が、そして周囲が、自ら施した教育が大失敗したと悟ったのはヨシュアが一六の時でした。
ヨシュアの兄は女癖悪く、庶民の人妻を城にさらってしまうような人物だったのですが、これをヨシュアが討ったのでした。
悪を倒しましたと首級を掲げられて、父も、そして母も、ひっくり返ったと記録にはあります。
それどころか、王が巡幸と称して税と称して略奪や奴隷狩りを行うと、これにも対抗して、なんと王の首を取って教会に奉納してしまいました。
そうヨシュアは、建前を、建前だけを真に本心から実践する化け物に育っていたのです。そのことに親族が気づいた時にはもう、何もかもが手遅れでした。
王を殺した罪でヨシュアは軍勢に襲われました。名誉ある一騎打ちを拒否されての乱戦で、ヨシュアは正面から大軍勢と戦い、馬を槍で突かれるたびに敵の騎士を蹴り倒して地面に足を付けず馬の主を変えること七回、武器を持ち帰ること四二回、取った敵はおびただしくも山となって、ついにその名を不動のものとしました。
”殲滅のヨシュア”
”死の騎士ヨシュア”
”地獄への導き手ヨシュア”
およそ、その品行方正すぎる生活態度と裏腹の悪名が、世界中に広がりました。
しかしヨシュアは私は正しい事をやっていると呟いては信念を曲げず、正義をなすために旅にでたと言います。
その頃には、ヨシュアに領土を与える王も、庇護を与える親族も、守るべき領土もありませんでした。ヨシュアはそれでもめげることなく、民と、正義と、信仰のために戦いました。
そして、数年で世界中の全勢力から疎まれ、敵となって追われることになりました。その間に大聖堂を七つ落とし、王国三つを滅ぼし、数えきれぬほどの悪という名の人々を討ちました。
教会を束ねる教皇領すらも滅ぼして、ヨシュアは綺麗な泉のもとで休みました。綺麗な泉の水で顔を洗い、また馬に乗って旅をしようかと顔を向けると、馬すらヨシュアを恐れて逃げ出していました。
いつものヨシュアならそれでも、それを気にすることもなく、別の馬を探していたでしょう。しかしこの時泉に移った自分の顔を見たのがいけなかったのか、ヨシュアはがっくりと膝をついて、何故こうなったのかと呟いたと言います。
悪を見逃せば良かったのか。
間違いを正さねば良かったのか。
その後ヨシュアを見た者はいません。
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