猫の勇者コンラッド
俺の名前は黒毛のコンラッド。塀の上を優雅に歩く種族の冒険者だ。愛するものは自由、好きなものは冒険。
平和な故郷である十条を出て、今は旅の身空ってやつだ。時々女神の大きな手を懐かしく思うときはあれど、どうにも性分は変えられなかった。
それでまあ、今日もお気に入りのマントに帽子、旅の途中で手に入れた剣を下げて、旅をしている最中だ。
おしゃべりなヤツだとは言わないでくれよ、実は俺も、ちょっとはそう思っているんだ。
今日俺がたどり着いたのはウルクっていう魚の臭いがするのに魚がいない街だ。辛気くさいところだと歩いていたら、目の前を半裸の人間が走っている。まあ、それだけなら趣味も色々ってやつなんだろうが、見れば追われているらしい。二人の女に寄ってたかって追いかけるとは全くもって気にくわない。それで俺は、女の方を断固味方することにした。正直に言えば、ちょっと女神に似てたんだ。猫にだって忘れがたいものはある。
塀の上を併走して、声を掛ける。
「いよう、お二人さん、急いで走るには今日は暑そうなんだが」
「猫が喋った!」
「そんなことどうでもいいから、急げ!」
驚く背の低い方に、ちょっと年長の方の女が言った。賢明な判断だと思うね。
「どこに行くんだい?」
「どこでもいいから、遠くへ」
年長の女が言った。そうか。
「そいつは奇遇だな。俺もだよ。それで一つ提案があるんだが、前の方に走り抜けると別の連中が待っている感じだ。まあ、お嬢さんがたの敵だと思うね。だから次の角で左に曲がった方がいい」
「左は行き止まりだよ! 僕、この辺でよく遊んでいたから知ってるんだ!」
背の低い女が言った。俺より長生きしてそうだが、人間で言うなら幼い感じなのかも。まあ、俺のやることには違いはないが。
「落ち着け。お嬢さん。行き止まりだから先がないってのは人間の悪い癖だ。現実はこうだ、勇気があれば、道は開ける。分かったか? じゃあいけ」
二人のお嬢さんは目配せすると、勇気を持った顔で道を曲がった。俺は笑って塀を降りた。
年長の女が、俺を見た。
「あなたはどうするの?」
「時間を稼ぐさ」
女は何か言おうとして、目を伏せた。
「あなたに感謝を。緑玉の目をした猫の勇者」
「良い響きだ。今度からそう名乗ろう。いけ。北の砂漠をまっすぐいけば、水があって街がある。そこにツノなしパン屋ってところがあるからそこで会おう」
「分かった。無事で」
俺は笑うと前脚の爪を出し入れして髭を揺らした。追っ手が一〇人ばっかりやってくる。
それで帽子を取って恭しく挨拶した。
「お初にお目にかかる。俺の名前は黒毛のコンラッド。メドレーの子コンラッドだ。愛するものは自由、好きなものは冒険。ついでに言うならそう……猫の勇者だ。今日からな。至高女神の名にかけて、ここを通してやるわけにはいかない。悪いが引き下がって貰おうか」
男たちが襲いかかったので俺は後ろ足払いして剣を抜いて一人を切り倒して一人を爪でひっかいて、同時に三人を転ばせた。男たちが度肝を抜かれて俺を見ている。
「もう一度言うがね、ここは通行止めだ。おっと、おしゃべりなヤツだとは言わないでくれよ、実は俺も、ちょっとはそう思っているんだ」
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