仲の良い兄妹

 干上がった街ウルクに兄妹がおりました。産後の肥立ち悪く死んだ母を思ってか、兄は妹を可愛がり、どこに行くにも妹を連れ立っていき、このため少々、そう、遊び友達からは変わったヤツだと思われていたのでした。

 ある時、兄は干上がったかつての水底にて大変珍しいものを見つけました。乗り上げた舟の船底から、リンゴの樹が一本生えていたのです。誰にも見られず気づかれず、リンゴの樹はたわわに実をつけていました。

 兄はその場所を秘密にし、一つづつ取っては、栄養不足のせいかちっとも育つ気配のない妹にあげていました。

--兄ちゃんなんでリンゴ食べないの?

 兄が皮を剥く様子を眺めながら、ある日妹は言いました。

--兄ちゃんくらいになるとリンゴは食べ飽きているんだよ。

 兄はそう言って食べたこともないリンゴの味を語るのでした。


 それから何日かの後、東の山地から兄に仕事の話が舞い込みました。妹に何か買ってやれるかと思い、兄は妹にリンゴを一つ渡すと、数日の間旅に出たと言います。

 仕事を終えて帰ってきた兄が見たのは、妹の亡骸でした。変わった味がする不思議なリンゴの話をしていた妹に、大人達がそのリンゴをよこせと詰め寄り、惨事になったということでした。


 兄はよろける脚で妹の亡骸に寄り添いました。冷たくなった頬に涙を落として兄は震える声で言いました。

--兄ちゃんだよ。分かるかい。

 そう兄が言うと、妹の手からリンゴがはらりと落ちました。


<大人七人を殺害した少年事件の裁判記録から>


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