第7話 コンビ結成とネガティブ
時政がくる限り簡単にはサボれない。てな訳で部活にはいかざるを得ない。
苦痛で仕方がない部活。もう辞めたいが辞めると言う勇気が無い俺。
だが、辛く大変な部活はまだまだこれからだった。
6月中盤。練習終わりで加藤先輩が一年達の方へやって来た。
「お疲れ様〜。あのさぁ。知ってるかなぁ。うちの水泳部毎年文化祭でシンクロやってるのね。もし良かったらみんなも参加してくれないかなぁ?」
(シンクロ?まじか。昔ドラマであったみたいなやつだよな。恥ずかしいし柄じゃないし嫌なんだが。参加しなくてもいいのかな?)
目立つのが苦手だし、水泳部を辞めたいとも思っていた俺は正直嫌だった。俺と同じく人前に出るのが苦手そうな村井を見る。
「やりますよ。」
(なに!?そういやこいつ兄貴水泳部だったな知って入って来てたのか)
「俺もやりますよ!つかやりたくて小南きたんで!やんないとか無いです!」
時政が驚愕の入部理由を明かした。
(そういやコイツ雅弘先輩と昔馴染みなんだ!知ってて当たり前か……。)
「松田は〜?やってくれる?」
加藤先輩の穏やかな喋り方、微笑みの裏に断れない圧力の様なものを感じる。
(断れ!断るんだ!勇気を出せ!)
「え、いや、その、僕は……。」
「まつけんもやるっしょ!な!」
「え、あ、はい。」
「本当!?ありがとー」
相変わらず断る事が出来なかった。断れない人間に対して時政と加藤先輩は最悪な組み合わせだ。
こうして俺の最悪、そしてそれ以上に最高の思い出となるシンクロ参加が決定した。
その頃の俺はいかに逃げるかしか考えられてなかったけど。
そしてその日の練習後。
「今年もシンクロをする事が決定しました。3年生2人、2年生全員、1年生の拓海と翔太以外で計26人の参加です。競泳練もある中大変ではありますが、学園祭までの間よろしくお願いします!」
「はい!!!!」
シンクロ長になった加藤先輩からの発表によく分かっていない1年以外の部員は皆気合の入った顔で強く返事をする。
拓海と翔太は普段からスイミングスクールの練習に出ている事が多く、あまり部活に顔を出していない。スクールの練習が大変なのか、シンクロはやらないとの事だ。
(羨ましい・・・)
いつもの如く練習の後で死ぬほどクタクタな状態で、いや、そんな状態だからこそそんな事を余計に考える。
「本格的なシンクロ練はまだ少し先になりますが、とりあえず今コンビを決めちゃいたいと思います。ホワイトボードに暫定のコンビを書くので、意見ある人はお願いします。」
コンビとはシンクロをやる時、肩に乗って立ったり、ジャンプしたり、その時に組む相手の事だ。
加藤先輩がホワイトボードにあらかじめ先輩達が決めたであろうコンビを書いていく。
(あぁ、どんどん部活を辞めにくくなる)
コンビが決まると、辞める時に組んだ相手が誰とどうするかとか問題が起きる。
そんな事を考えて皆とは違う変な緊張をしていた。
俺の名前が書かれる。
そしてその隣には時政の名前が。
「まつけん!!俺らコンビだな!!よっしゃ〜!」
「おう。やったな!」
確かに嬉しかった。話した事無い先輩とかよりも物凄くやり易いと。
でも俺は部活を辞めたいという気持ちが渦巻いている。
(俺と組めてこんなに喜んでくれてるのに、俺はどうやって辞めるかばかり考えてる。素直に喜ぶ気持ちになれないや。最低だな。)
時政の俺と組めて喜ぶその顔が、普段なら楽しい気持ちになり元気をくれるその顔が俺の心を締め付ける。
「俺部活辞めます。シンクロもやりたくないです。」
そうはっきり言えない自分が情けない。部活の人達は皆んな大好き。
だからこそそんな気持ちでいるのが恥ずかしい、そんな事を思っている事を知られるのが怖い、嫌われたくない。
時政を直視出来ない。ホワイトボードの他のコンビの名前を見続けた。
そして部活は終わった。いつものように俺は更衣室の端っこで先輩達がふざけているのを笑いながら見る。でも色々な不安からか心では笑えていなかった。
シンクロが始動という事で皆んなテンションが高めだ。
(シンクロってあの人前で踊ったりするやつだろ?なんでそんな元気になるんだよ。ダサいし恥ずかしいだろ。何考えてんだろ?この人達)
どんどんネガティブが増していく。心の中で先輩達を切り離そうとしていた。嫌いになれば、好きじゃなくなれば辞めやすいだろう。
そんな最低な考えだ。
「まつけん楽しみだな!!俺シンクロやりたかったんだよ〜!しかもコンビがまつけんとか最高じゃん!よろしくな!相棒!」
「まぁ俺シンクロとか分かんねぇしな。でもまぁ楽しみかな。お前とコンビだしな!相棒!」
自分のネガティブを押し殺し、勢いとノリで時政と相棒と呼び合った。
(相棒か、、、)
シンクロ本当は嫌なんだよね。そう言えばこいつにも見放されて部活も辞めやすいかな。そう一瞬思ったが言えない。
相棒その一言がこいつとの関係を切りたくない、そう感じさせて呪縛の様に俺を縛り付けている様な気がした。
辞めたいけどやめる勇気が無い、またサボりたいけど勇気が無い。
そんなビビリゆえに答えの出ない、不毛な悩みを抱えて帰る。
その日の夜、嫌な想像ばかりが頭に浮かんだ。全然出来ずに先輩達に怒られる俺。無視する様になる同期達。失望した様な目の時政や雅弘先輩。ダメダメな事が全てバレてクラスでも孤立する俺。
俺はそんな事ばかりを頭に浮かべてしまい中々寝付くことが出来なかった。
今日も明日が怖い。
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