第27話 クルリーズ村の青年
指輪の力は依然わからないままだ。だがそんな僕の都合などお構いなしに魔王はジェルに出撃の命令を下した。
わずかな手勢を連れてエルフの首都を攻撃しろとのことだ。
僕とジェル、コリーン、イレインの三人は戦地に出発した。
「これが与えられた兵か、単なる寄せ集めだな」
目の前に並んだ兵達を見てイレインがつぶやいた。
数だけは千人を超えるがそれぞれの体格は小粒で明らかに、前回戦ったときに比べてスケールダウンしている。
テントの中で作戦会議をする。
ここに居る貴族はジェル夫妻だけだ、他にはいない。
「クルリーズ村で僕を助けてくれた人達はいないの? あの人達はすごく強かったのに。ネズミで僕を助けてくれた人もいないね?」
ジェルと一緒に黒マントを着用し僕を助けに来てくれた人たちは、わずかな人数でクルリーズ村を襲った反乱軍を退けた。。
「彼らからも協力の申し出があったのですが、陛下から止められてしまいました。今回は私とキョウヤ様だけで部隊を指揮しろとのことです」
「全滅必至の作戦だからな、優秀な人材を失いたくないのさ」
イレインが肩をすくめて言った。
「今いるもの達だけでなんとかするしかありません」
コリーンが娘の言葉を制した。
「エルフの首都エルブレイムは難攻不落の城塞都市です。まず近づくことさえ容易ならないでしょう」
ジェルは机の上に広げた地図を指さしながら僕に説明してくれる。
「エルブレイムの北にはデルム山脈がそびえ自然の城壁となっています。西側には湿地帯があり深い葦が邪魔をして、船での進軍は難しく、東側にある迷いの森は入るものを拒み、エルフさえ立ち寄らないそうです」
「そうすると進軍するなら南側って事?」
ジェルの説明を聞いて僕はそう結論付けた。
「そういうことになりますが、当然それはエルフ達にもわかってます。十重二重の防衛線を張ってこちらを待ち受けていることでしょう」
「おまえの考える事などとっくに皆気がついている」
イレインが僕の頭を小突いた。
「エルフの手練れのほとんどは反乱軍に参加しています。防衛戦が突破され直接首都を攻撃されたとなるときっと反乱軍に参加しているエルフ達は動揺し、彼らは首都の防衛のために若干を帰還させ、その人数を二つに割く事になるでしょう。それが結果的に反乱軍を弱体化させることに成ります」
「う~ん」
どこへ軍を進撃させたら良いのか考えながら僕は地図を指でなぞった。
地図の上に指を置いた途端指輪にはめられた宝石が赤く光った。
よく見ようと右手を顔の前にかざすともう光は止んでいる。
気のせいだったのだろうか。
「どうした。会議中だぞ、何を呆けている」
「今、指輪が赤く光った」
イレインがそばに寄り僕の右手を取った。
「別に変わりは無いぞ」
僕はさっきと同じように右手で地図を指さした、が今度は何も起きない。
「あれっ? 光らないな」
「何かの光が反射しただけじゃないか」
「そうかな」
「ま、そんなことはどうでもいい。大事な話の腰を折るな」
「ごめん、イレイン。ジェル、話を続けて」
「では続けます」
会議はエルブレイムの状況説明だけで終わった。何も知らない僕の勉強のためだったのだ。
エルフの首都をどこから攻め入るか結論が出なかった僕たちは、与えられた軍隊の視察に出かけた。
彼らも今は皆思い思いの状態でくつろいでいる。あるものは昼寝をして、あるものは食事をして、あるものはカードゲームで盛り上がっている。皆僕たちが通りかかると立ち上がり不動の状態で迎え入れた。
見ればみる程前に見た鬼達に比べ貧弱な者達ばかりだ。筋骨隆々でまるで岩の固まりだった彼らに比べて皆僕達と体つきが変わらない。聞けば魔力も弱いものばかりで中には魔法が全く使えないものもいるという。
ジェルが盛んに兵達に話しかけている。彼らもそれに直立不動で答える。
ジェルマーノ・ペルコレージの名を僕は保護されていた反乱軍にいたときに直接聞いた。彼らにとって強敵という認識らしい。それは味方である魔族にとっては英雄ということを意味する。
皆、ジェルの存在を疎んじたりしない。話しかけられる順番が自分に回ってくるのをいまかいまかと待ちわびている。
彼らが聞かれているのは主に出身地と戦歴だった。住んでいる場所でおおよその彼らの身分と魔力の強さがわかるらしい。クルリーズ村のように身分の低いもの、魔力の低いものを住まわせている地域が他にもあるらしい。
「出身はクルリーズ村です」
その村の名前を聞いて僕の心臓がはねた。
ジェルに話かけられている兵のうちの一人がそう確かに答えた。見た目はぼくとそう変わらない年齢の青年に見える。
ジェルが僕のほうをチラリと見て、すぐに青年の方へ向き直った。
「がんばってくれたまえ、君たちの奮戦に期待している」
「はい!」
その後青年とジェルは形通りの挨拶で話を終え、僕たちは別の兵士の元にと足を進めた。
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