第23話 援軍

 外が騒がしい。誰か帰ってきたのか、でももう遅い。

 扉が勢いよく開いた。


「やはり村に帰って居たのか」


 反乱軍のリーダーだった。


「何しに来た、フェリルは死んだぞ」


 そちらを見ずに言う。怒りに肩と声が震える。


「誰が死んだのか知らないがお悔やみ申し上げる。しかしその子は君を助けに無駄に命を散らしたのだ。それは我々の責任ではない君のせいだ。君の存在のせいだ。それだけじゃない君のせいで我々の仲間も少なからず犠牲になった」

「ほかの村の人は?」

「君を助けに来た魔族は一人残らず始末した」

「一人残らずって、カリーナは、長老は、タドンは、ヒラカは、デユカは、ミシンは、」

「名前まで知らん、戦いに不慣れなものばかりで始末するのはたやすかった。おそらく君を助けるための時間稼ぎだったんだろう。君一人を助けるために犠牲になったんだ」

「僕が、一体僕が何をしたというんだ」

「今は何も、だがこれから何かするかも知れない。君は我々に恐怖を与えている」

「それじゃこうすれば良いんだね」


 僕は首にナイフを当てた。


「うん? そうしてくれれば我々も助かる」

「最後のお願いだ、この子を埋葬してくれないか。僕もそのとなりに埋めてくれ」

「その子の埋葬については承ろう。だが君をその横に埋めることはできない。君の遺体は確かに死んだという証拠のために持っていかなければならない。悪いな」

「死んじゃ駄目だ!」


 赤髪の少女が小屋に飛び込んできた。


「ジャネット・・・・・・」

「ケイタ、いえ、キョウヤ、おまえを必要とする人もきっと世の中にはいる」

「もういいんだジャネット僕はもう疲れたよ、僕のせいでたくさんの人が死んだ。僕にはそんな価値はないというのに」

「そんなことは・・・・・・ない」

「これ以上生きていてどうするというんだ、僕のせいで争いが生まれる、僕は生きていてはいけないんだ」


 外で大きな音がした。

 僕と皆は気をとられてそちらの方へ向いた、だがそちらに気を向けずこの隙をうかがっていた人物がいた。

 ジャネットが飛びかかり僕たち二人は床に転がった。彼女だけ起き上がりその手にはナイフがあった。


「あ」


 僕は彼女の手にナイフが握られているのを見て、自分の手にナイフがないことに気がついた。


「何するんだジャネット、かえしてよ」


 僕は彼女に向かっていった。だけど軽く組み伏せられ地面に這いつくばった。

 僕は彼女に組み伏せられ床に縫い付けられていた。腕の関節を決められ動くことができない。彼女の体の重さを感じる。本気で抵抗しているのに動けない。


「このまま殺してくれ、ジャネット」


 僕は言った。


「そうだジャネット止める必要は無い」


 リーダーは言った。


「私は死なせたくはない、それだけ」

「こんな僕に生きている価値があるというのか」

「そんなことは私は知らない。今まではそうだったとしてもこれからもそうだとは限らない」


 僕はただ抵抗する事を諦め地に伏しているだけだ。振りほどくこともできない。


「では、ジャネットの意思を尊重して生きたまま連れて行こう」


 僕は無理矢理引き起こされた。もう抵抗する気力も無い。

 外に連れ出された。


「敵襲!」


 黒いフードをかぶった人が戦っている。

 その人達に反乱軍の兵士が次々と倒されていく。村の人達が帰ってきたのかと思ったが、その俊敏は動きと剣捌きはよく訓練されたものだった。

 リーダーも剣を抜き、その黒い人達に向かっていった。


「何者だ!」


 剣で対応する。


「反乱軍とおしゃべりする時間は無い」

「反乱軍? 魔族か!」


 リーダーはあっさりと倒された。


「リーダー!」


 リーダーを倒されジャネットが支えていた僕の体から手を離し、剣を抜きその黒いフードをかぶった人に向かっていった。

 黒いフードの人は強く、ジャネットは防戦一方だった。

 キン、ジャネットの持っていた剣が弾き飛ばされた。

 黒フードは容赦なくジャネットの命を取ろうと剣を振り下ろした。


「だめだ! 止めて!」


 黒いフードの男は僕の言うことをきいて動きを止めた。振り下ろされた剣は彼女の首の上数センチの所で止まっていた。


「彼女には何度も助けてもらってるんだ、お願いだから見逃してあげて・・・・・・ジェル!」


 黒マントはフードをあげ、顔を見せた。それはこの間までお世話係兼相棒だったジェルマーノ・ペルゴレージだった。


「命拾いしたな小娘、見逃してやるから行くがよい」

「ここで助けたこと、後で絶対に後悔させてやるからな」


 彼女は剣を拾い、背を向け後にした。僕を見て何か言いたそうにしていたが、僕は特に彼女に何も言わなかった。


「ジェルにはまた、助けられちゃった」

「危ないところでしたね」


 ジェルと僕の所に同じく黒マントを着たもの達が集う。


「この村にいた、人間共は始末しました」


 耳元に口を寄せ言った。


「よし、撤収する、ではキョウヤ様行きますよ」

「待って、ジェル。この村のみんなを埋葬したい、僕を助けるために犠牲になったんだから」

「反乱軍共の仲間がやってくるかも知れません。それに対してこちらは十二人しかいません。ある程度の人数が来られるとやっかいです」

「僕一人でも村の人達を埋葬するよ」

「仕方有りませんね。わかりました」


 村がよく見える丘の上に皆を埋葬した。僕を助けに来た場所にも行って村のみんなの遺体を捜してきた。その中には長老もいたが、カリーナを始め数人の遺体は見つからなかった。


「村人全員の遺体を埋葬できなかった」

「遺体を見つけられなかったものは・・・・・・きっとまだ生きているからですよ」

「そう・・・・・・だね・・・・・・そうだと良いね」


 僕もジェルの言うことを信じることにした。


「僕はこんなに人を犠牲にしてまで生きている価値はあるのかな」

「それを疑問に思うならば、これから価値のある人間になればいいじゃ無いですか」


 今さっきジャネットにも言われた。


「僕だってこれまで何度も自分を変えようと努力したことがあったよ。でも駄目だった。駄目なやつは努力の仕方も駄目なんだ」


 僕は村人達のお墓に花を添えた。


「フェリル、君はこんな僕にどう生きて欲しかったんだ」

「これからキョウヤ様はクルリーズ村の人達の分まで生きねばなりません」

「それは重いよ、僕には重すぎるよ」

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