第18話 タイムリミット
「ごめんなさい、命だけはお助けを・・・・・・」
僕は諦めて命乞いした。
「助けるかどうかはおまえの返答次第だ」
野太い声がする。腕が少しだけ緩む。
「ごほごほ」
僕は咳き込んだ。何を聞かれてもとぼけよう。
「僕は何も知りません」
「しらねぇってこたーねえだろう、言え! おまえはジャネット嬢とはどういう関係だ」
「ジャネット嬢?」
なんだそっちのことか。でも返答の内容次第ではやはり殺されるかも知れない。
「前のキャンプ地でお世話になったんです」
「それだけか」
「それだけです」
僕を解放して上から下までジロジロ見る。
「確かに彼女が相手をするようななりはしてないよな」
失礼な人だな。
「あんまりこの辺をうろちょろするな、見逃してやるからとっとと帰れ」
「ちょっとボビー、あんたケイタに何をしてんの!」
ジャネットがご馳走ののったお盆を持って帰ってきた。
「何もしてないさ、怪しいやつだから調べてただけだよ」
「見てわかるでしょう、大それた事ができるようには見える? 向こうに行きなさい」
屈強な男達がジャネットに一喝されただけですごすご引き下がっていく。それにしても僕って他人から見たらどういう風に見えているんだろう。
「あまりうろうろしない方が良いわね」
彼女はまた僕をテントの中に引き入れる。
「こんな物しかなかったけど」
食事を乗せたお盆を僕の前に置いた。
「いただきます」
僕は手を合わせて遠慮無く頂いた。お腹が空いていたのは本当だったから。とりあえず侵入には成功したようだ。食事は保存に適した水分の少ない固いパンと干し肉、残り物であろう冷めたスープだった。
しばらく僕の食事を眺めていたジャネットがおもむろに口を開いた。
「ねぇ、ケイタ。今まで何をしていたの」
「うん? 別にこれといったことはしてないよ。毎日畑仕事に精を出していただけ」
僕は固いパンを冷めたスープでのどに流し込みながら答えた。
「なぜ、革命軍なんかに来たの? 運が悪ければたとえ人間でも殺されるところだったのに」
「ジャネットがどうなったか気になったからさ。まさか本人に会えるとは思っていなかったけど。ジャネットこそ、僕を逃がして大丈夫だった? あの後酷い目に遭ったんじゃない?」
「うん、ものすごく怒られた。でもリー姉様がかばってくれたから、ちょっと鞭で叩かれたくらいで済んだわ」
「えっ、鞭で叩かれたの? 大丈夫? 怪我しなかった?」
「怪我はもう治ったわ、でも傷跡は一生残っちゃうでしょうね」
「そっか・・・・・・ごめん」
「ううん、いいの。戦場に出てるんだから傷の一つや二つできて当たり前。リー姉様だって見た目はあんなに美しいのに無数の傷跡を鎧の下に隠してるわ」
僕は食事の手を止めてうつむいた。
「ごめん。僕、ジャネットに迷惑かけてばかりだね。ジャネットだけじゃなくていろんな人に迷惑かけている」
「そうね、でも悪運だけは強いわね。何とか生きているんだから」
食事を食べ終えた僕はここから、本題に入った。お世話になってばかりのジャネットをだますのは心苦しいがやるしかない。
「ジャネットは・・・・・・革命軍はこんなところで何をしているの。この辺には小さな村がいくつかあるだけで首都はかなり遠いよ」
「それは・・・・・・」
「軍の機密かな、言えないなら無理には聞かないけど」
「あんた知らないの? 私は反対して参加しなかったけど、この近くのクルリーズ村というところにタケカワキョウノスケのひ孫が来ていて重要な作戦を立案している、という情報が入って襲うことになったの。でもそんな重要な人物は結局見つからなかったの」
「ふ~ん、京矢様がこんなところにいるわけ無いのに」
僕は極力興味なさそうに言った。
「結局、襲撃した部隊は腹立ち紛れに村の娘を人質にとって帰ってきちゃったの。そのタケカワキョウヤを連れてくれば返すと言い残して」
「ただの村人のために京矢様を差し出すとは思えないなぁ」
「期限は明日陽が沈むまで、それまでにそのタケカワキョウヤを差し出さなければ彼女たちの命はないわ」
「ぶっ」
時間が無い。
「?」
ジャネットは不思議な顔で僕を見つめている。
「いや、それは酷いんじゃないか、さっきも言ったようにただの村人と引き換えに京矢様を差し出すわけがない」
「それでもかまわない、村人を見捨てたと悪評が立てば彼は信頼を失うから」
「そんな無茶な、そんなことをしたら革命軍自体の評判も悪くなる」
「彼らは本気よ」
「可哀想だよ、逃がしてあげようよ、ねぇジャネット」
彼女は真剣な表情で僕を見た。しまった、失言か。
「ちょっと会ってみる?」
「え、いいの?」
「いいわよ、あんたのほうが魔族に詳しそうだし」
僕はジャネットに連れられテントをでた。
男の人が見張りにいるテントの前に出た。
「ちょっと二人と話をさせて」
「見た目はひ弱くても魔族は魔族、気をつけろよ」
僕はジャネットと一緒にテントに入った。そこにはフェリルとカリーナが足に鎖で繋がれていた。鎖の先は太い杭に繋がれていて女の子には抜けるのは難しい。
カリーナはフェリルをかばうようにその背に隠した。
「だから、タケカワキョウノスケのひ孫なんか知らないと何度も言っているだろう」
今にも牙をむき出しそうな表情で言う。
「その事を話しに来たんじゃないわ」
「それじゃ何しに・・・・・・!」
僕と視線が合ったカリーナは目を丸くした。
僕はジャネットに見られない位置で自分の口の前に人差し指を立てた。
カリーナは慌ててジャネットに向き直り、再び目をつり上げた。どうやら「静かに」を伝える動作はこの世界でも共通のようだ。
「それじゃ何しに来たんだ人間!」
「ジャネット、僕が話すよ」
僕の声に反応してカリーナの背中からフェリルが顔を出した。彼女も僕を見て驚きの表情を浮かべる。
僕は彼女に目配せした。意図は伝わったようで彼女は慌てて顔の表情を直す。
僕はジャネットの前に出る。
「君の名前は?」
「カリーナ・・・・・・」
「カリーナ、このままだと君たちは処刑されてしまうかも知れないんだよ。だからよく考えて発言して欲しい」
「どんなに考えたって答えは同じだ」
「君たちの村に魔族の軍が来たことはないのかな」
「無いね。私たちの村は貧しいけど戦争には無縁の平和な村だった。あんた達が来るまではな」
彼女はそっぽを向いて答えた。
「それじゃ、人間は? 武川京矢らしき人物が来たことはないの?」
「純粋な人間は敵だ。そんなやつ村に入れるわけがない」
「君たちは武川京矢なんか知らない、そうだね」
「そうだ、何度も言わせるな。そんな人間見たことも聞いたこともない」
とカリーナが表情を引き締めて答える。
「後ろの白い翼の子はどうだい」
「はい、私もそうです。そんな人知りません」
僕はジャネットの向き直った。
「ジャネット、彼女たちは本当に何も知らないようだ」
「知らないと言ってるから二人を解放する、というわけにも行かないわ。嘘をついている可能性も否定できないし」
僕を助けてくれた彼女なんだから、もう一押しすれば二人も解放してくれるかもしれない。
「わかった、リーダーにちょっと行って話してくる」
ジャネットは出て行った。僕は二人とテントに残された。出て行く彼女をを僕は見送った。
「おまえ、こんなところで何してんだ!」
ジャネットがテントから出ていってすぐ、カリーナの罵声が僕の背中に飛んだ。
僕は振り返った。
「結局彼らは、武川京矢の容姿を知らないからね、侵入は簡単だった。同じ人間だし」
「おまえを守るためにみんな酷い目に遭ってるんだぞ!」
「わかってるよ、だからクルリーズ村の誰にも頼らず僕が一人で来た。カリーナとフェリルを助けるために」
「無理だ。おまえ一人に何ができる、私たちのことは忘れてさっさとどこかへ行け」
「だめだよこのままだと君たちが殺される」
「ごちゃごちゃうるさいぞ、このくそ人間! こっちへ来い、おまえの喉笛に齧り付いてやる!」
カリーナが突然牙を剥き、僕に襲いかかってきた。
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