第13話 救世主を解雇

 ネズミの道案内で向かった先にいたのは馬に似た一匹の魔物だった。馬と決定的に違うのは目が四つあることと牛型の丸まった角がこめかみから生えているところだ。


「さぁ、お乗り下さい。これから先はこのタカクが案内します」


 ネズミはいった。この魔物の名前はタカクというらしい。


「無理だよ、馬なんて一人で乗れないよ」


 それに大きすぎて背が届かない。


「大丈夫です」


 ネズミが一声鳴いた。するとタカクが足を畳み、地に伏せた。僕は恐る恐るそれにまたがった。ネズミが僕の手から離れ、タカクの頭の上に乗った。


「では行きますよ、しっかり掴まって下さい」


 タカクが立ち上がる。そのとき大きく揺れ危うく僕はずり落ちるところだった。


「走れ」


 ネズミが命令すると馬は一度大きく嘶くと一目散に走り出した。僕はその速さと高さに目を回した。ただ目をつぶり必死に鬣につかまった。

 タカクが走った先には数匹の鬼の集団があった。タカクに乗った僕が近づくとその中からジェルが飛び出してきた。 


「キョウヤ様、本当に無事でよかった」


「あんまり大丈夫とも言えないけど」


 僕は地に伏せたタカクから降りた。足に力が入らずふらふらする。


「ジェルの方こそ無事でよかったよ」


 ジェルのそばにローブを纏った男がいた。その男は足下へと歩み寄ったネズミを拾い上げた。


「無事キョウヤ様を救出できたようですね。私の任務は無事終了しました」


 それはネズミと同じ声だった。


「ああ、ご苦労だったフシ」


 ジェルがフードの男に礼を言った。この男がネズミを操って僕を案内してくれたようだ。


「さぁ追っ手が来ないうちにいきましょう」


「わかった、でももう僕はタカクに乗るのは嫌だよ」


「わかりました。では鬼の背中に乗りましょう」


 そこでジェルの顔が曇った。


「実はキョウヤ殿、もし救出に成功したら登城させよと陛下が仰せです」


「魔王が?」


 失敗が多かったから怒られるんだろうな。 


「あーあ、せっかく助かったと思ったら今度は魔王に酷い目に遭わせられるのかー」


「そんな酷い目には遭わない・・・・・・と思います。でしたら救出なんかしないで放っておくでしょう」


 三日後、僕たちは城に入った。

 ジェルは部屋の外に待たされ、僕だけが謁見の間の通された。


「これ、タケカワキョウヤ。今日お主を呼び出したのはなぜかわかるか?」


 老木のような見た目の大臣が僕に語りかける。


「それはやっぱり僕に罰を与えるため、ですか?」


「その通りじゃ。お主は二度の失敗をした。それだけではなく前回の戦いでは大事な場所を奪われ反乱軍に敗走するという無様な事になった。攻撃に有利な地を取られた本隊は数に劣る反乱軍に敗戦することになった。この失敗は看過ならん。よって、陛下自らお主を処罰する」


「タケカワキョウヤよ」


 頭上から魔王が僕を見下ろす。


「はい、陛下」


「言い訳があったら聞いておこう」


「言い訳はありません。ただ僕には戦争が向いていなかったのです。人を指揮できる能力もなかった」


「失敗を次に生かして再起の誓いを述べるかと思いきや、なんたる弱きの発言。予はほとほとおまえにあきれ果てたぞ」


「陛下を失望させるでない!」


 大臣が杖で床をつついた。


「ではタケカワキョウヤに罰を与える、お主は魔族の救世主にふさわしい人物ではなかった、おまえの世界に送り返すまでの間、それまでクルリーズ村で過ごすがよい」


 魔王が淡々と言う。


「・・・・・・え、それだけですか?」


「本来ならもっと重い罰を科すところだが、お主はキョウノスケのひ孫、かのものの手柄に免じてそれだけで済ます。陛下の深い御心と曾祖父に感謝するのだぞ」


 大臣が説明した。

 謁見室の外に出るとジェルが心配そうな顔をしてよってきた。


「大丈夫でしたか? 陛下に何をおっしゃられましたか」


「あはは、役立たずのおまえは救世主を首だって」


「それだけ、ですか」


「それだけ。日本に帰るまでクルリーズ村で隠居していろ、ていわれたけど。そこってどんな村なの」


「私もいったことがありません。聞いたところに寄るとクルリーズ村を含めクルル群は魔族の中でも極めて魔力が少ないものが、身を寄せ合って生活しているところだそうです」


「そっか、ジェルにもお世話になったけど役に立てなくてごめん」


「いいえ、こちらこそ。では、せめて最後にクルリーズ村まで案内できるようお願いしてみます」

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