リアリティのない物語はもうまっぴら!

ちびまるフォイ

いちばん自分のことを知る人

「……なんじゃこれは」


「なにって俺の小説だけど」


「こんなものクソじゃ!! リアリティが足りーーん!!!」


「ええええ!?」


男は勢いよく立ち上がって、地球の裏側まで聞こえるような声を上げた


「お前、これ書いててよく気づかなかったな!

 書いてて、こんなのあり得ないわ、とは思わんかったのか!?」


「そういわれても……」


「たとえば、ここ! 壁から人間が出てくる冒頭!

 そんなの現実にありえるか!? ありえんじゃろ!?」


「それにココ!! 美少女が空から落ちてくるだぁ!?

 妊婦が空にでも浮いとるのか!! バカか!?

 だったら病院も空に浮いてて、助産師さんも浮いとることになるじゃろ!!」


「あとこれ!! 転校生に恐竜がやってくるとか頭おかしいじゃろ!!

 そもそもどうやって受験したんじゃ! 恐竜の手で願書書けんのか!? ん!?」


あれやこれやと一行一行見ては、マシンガンダメ出しを行ってくる。


「そ、そうはいってもこれフィクションだし……」


「だからこそじゃボケェ!!

 これはフィクションでも読む人はノンフィクションじゃ!!

 現実感のない、リアリティのないものなぞ、感情移入できるかい!」


「うるさいな、それはあんたが想像力不足なだけだろ?」


「現実感のない頭お花畑のお前みたいなやつが

 こんなありえないトンデモ設計のごみクソ文章を書き垂れるじゃろがぃ!!」


「なにをーー」


ここまで言われれば眠っていた闘争本能が顔を出す。


「それなら、リアリティのある話を書いてきてやるよ!!」


それから俺は部屋にこもって必死に小説をしたためた。

またアラ探しされないように、きちんと細かく調べながら完成へとこぎつけた。


「完成した!! さぁ、これならどうだ!!」


「なになに……『社会人・励男(はげお)の優美なるグルメ生活』ね」


「そうさ。社会人1年目の励男が会社で疲れた精神を癒すために

 ふらりと入った居酒屋きっかけで人との交流を深めつつ

 グルメな食生活への関心を深めていくハートフル……」



「つまんね」



「うっそぉ!?」


リアリティを追求してこだわりにこだわりぬいた渾身の一作だったのに。

少なくとも以前よりはマシな評価が返ってくると信じて疑わなかった。


「リアリティが足りん」


「はぁ!? テキトーなこと言ってんじゃねぇよ!

 今度の主人公はちゃんとした社会人で、おかしな展開や突飛な設定はないぞ!」


「だからお前はいつまでたっても底辺なんじゃ。ここを見てみぃ」


「……料理の感想のくだり?」



「なんじゃこの『まるで魚のチーズフォンデュ』は。

 魚でやらねーから。そんなものあるわけないじゃろ」



「比喩表現だよ!! ちゃんと見ろって!!

 "まるで"って書いてあるだろ!?」


「"まるで星空に浮かぶ牛脂のようだ"とか言われてイメージつくのか?」


「いやそれは……」


「お前の貧弱な語彙力のふるってドヤ顔で比喩を使っても

 そこにリアリティがないから、ちーっともイメージできないんじゃ!

 比喩を使うならリアリティを伴うものにしてみろやゴラァ!」


「むちゃくちゃだ! それじゃ全部味気ない文章ばっかりになるだろ!」


「それをどうにかするのがお前の力じゃろ!

 飛び道具に頼ってんじゃねぇ!」


男はずいとまるで取調室の刑事のように怖い顔を近づける。


「わしはもう嘘で塗り固められ、偶像で飾られた小説は大っ嫌いなんじゃ。

 リアリティのない物語はただの妄想の掃きだめじゃ」


「おのれーー、やってやる! やってやるとも!」


俺は負けじと「リアリティ」とは何なのか追及するたびに出た。


ときに山の山頂に上りリアリティの真理を考え

歯磨きでえづくおっさんを見ながらリアリティを考え、

最終的にネットで「リアリティ とは」で検索して答えを見つけた。



「ついにわかったぞ!! 真のリアリティとはなんなのかを!!」



それか小説を書き上げるのは怒涛の勢いだった。

あっという間に完成した小説を男に見せた。


「どうだ! これこそ、俺の至ったリアリティの本質だ!!」


「なるほど、やればできるじゃないか。

 会話も、地の文もなにもかもが等身大になっている。

 見えない人間から話しかけられる心理もリアリティに満ちている」


「だろ」


「それを不思議がらないところもリアリティがある!!

 ああ、これこそ真のリアリティじゃ!! やればできるじゃないか!!」


「わっはっは!! そうだろ! これが俺の見つけたリアリティだ!!」




そのとき、閉め切っていた部屋が開けられた。



「……お兄ちゃん、さっきからひとりで、誰と話してんの?」

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