「探偵 神門十夜 物怪奇譚」(ぴ~とるいじ様)
怪奇事件はいつも “此処” から始まる
怪奇。
この世には、人の想像が及ばない不可思議な現象が数多く存在する。
それは、人外の『モノ』達が、ごく当たり前に人々と共に暮らすこの街に置いても例外ではない。
その街から少し離れた場所に、一つの屋敷が佇んでいた。
治安維持を任された組織の最高権力者、
小さく息を吐いた直後、扉の向こうに気配が見えた。自然と顔つきが引き締まる。
「……当主様」
「入ってくれ」
規則正しいノックの後、「失礼いたします」と断って執事服の男性が入室してきた。丁寧に腰を折った後、淡々と告げる。
「当主様、例の事件の新たな情報が入りました」
「……もしかして、また起きたのかい?」
女性はかけた眼鏡の縁に触れ、気怠く男性に問いかける。
男性は無言で肯定し、静かに部屋に設置された大型テレビを操作した。
一瞬置いて、暗かった画面が鮮やかに映像を流し始める。移り変わっていくその内奥に、女性は一瞬目を見開いたが、すぐさま険しいものへと変じていった。
「ふむ。どうせ、これ以外の情報は無いのだろう?」
「はい、……申し訳ございません」
「別に構わないよ。それにしても、例の事件がここまでになっていたとは、ね」
もう少し早く気付ければと思ったが、過ぎたことはどうしようもない。ならば、これ以上の被害が広がらないための対策を練るしかないのだ。
「如何なさいますか? 捜査を強化する手配は――」
「必要ないよ。これは、別口で調べてもらおうじゃないか」
皆まで言わせず、女性が突破口を切り出す。
その解決策に男性も納得がいったのか、すぐさま目を伏せて再び腰を折った。
「なるほど、『あの方』にご依頼ですね。かしこまりました」
すぐに手配します、と一礼して男性が退室していく。
それを見送って、女性は少しだけ不敵に口元を吊り上げた。数時間後にここに来るだろう彼を想像し、遠くを見つめる。
「この怪奇事件は、彼でなくては無理だろうさ」
そう。
怪奇現象が未だ起こるこの街で、自分達の手に負えない領域は彼の得意分野だ。
怪奇の事件を専門に扱う、この街きっての探偵。
「
先程の憂い顔とは別の意味で口に手を当て、ここにはいない彼へと微笑んだ。
――今日も今日とて、暇だ。
ごろごろと、自宅兼事務所である高価なソファーで寝転がりながら、オレ、神門十夜はふあっと一つ欠伸を噛み殺した。
前に依頼が来てから、どれだけ経ったか。覚えちゃいない。
しかし、オレが暇ということは、イコールこの街は『平和』ということ。良いことだ。存分に惰眠を
そう結論付けて、だらだらと来客用のソファーを陣取っていると、向かいのソファで少女が同じく寝転がっていた。
だらん、と寝転がっている様は溶けたアイスの様だ。しかも、スカートがめくれ上がって丸見えである。オレは別に構わないが、客が来たらどうするのか。
「おい、ユウナ。丸見えだぞ、下着くらい履けよ」
仕方なしに注意すれば、少女はごろんと抗議する様に寝返りを打った。
「えぇー、だって窮屈なんだもん、アレ。だから、嫌。それに、ノーパン健康法ってやつよ~、だからいいの~」
言いながら、ごろごろと平和を貪る彼女に、ひとつ溜息を吐いた。
彼女は、オレの助手にして、契約した使い魔。戦闘能力はずば抜けているが、どこか抜けたところがあり、ついでにオレの言葉にも耳を貸さない時がある。
だが、それでも自分の頼み事はある程度聞いてくれる、頼もしい人外の相棒だ。
この街は、妖怪や悪魔という人外と共に暮らす場所だ。
別々の種族が一緒に住めば揉め事は絶えないだろうが、ここには参剋斐財閥という、街の管理者である治安維持部隊が存在している。罪を犯せば懲罰も待っているし、好き好んで犯罪者になる奴は少ない。
故に、『不思議な』怪奇事件専門のオレの仕事はたかが知れている。つまり、平和ってことだ。惰眠が眩しい。
「あー、暇だねぇ、十夜」
「んー? そうだなぁ……まあ、良いじゃないか。平和で何より。惰眠も貪れる。快適だ」
試しにテレビをつけてみたが、流れてくるのは今街を騒がせている強盗事件ばかりだ。まだ、犯人は捕まっていないらしい。ところどころ入ってくる情報に耳を傾けながら、またごろんと転がる。
ユウナも適当にテレビのニュースを見ていた様だが、飽きたのか「暇ぁ~」と再びぼやき始めた。
「ねえねえ」
「何だ」
「暇過ぎて、お金の残り、少ないよねぇ~?」
「んあ?」
金か。
そういえば、そろそろ底を尽きそうだったことを忘れていた。
だが、こうして寝転がり、体力の消費を最小限にし、質素倹約しているおかげで持ちこたえている。つまり、平和ということだ。
「まぁ、良いんじゃね? そんな些細なことは気にするな。平和一番。平和は金じゃ買えないからな」
「……、う、うん。そ、そうだねぇ~?」
何だか上手く誤魔化されている気がする、と曖昧に訴えてくる彼女は無視する。
まあ、金も飯も何とかなる。
確かにあまり事件は起きないが、それでも問題が発生しないわけでもないのだ。
例えば――。
「ねえ、十夜ぁ~、前に仕事したのっていつだっけ?」
素晴らしいタイミングで、ユウナがオレの考えに合いの手を入れてきた。
流石は使い魔。良い奴と契約した。
「あ~、そうだな、あ~、……確か三週間前じゃなかったか?」
「じゃあさ、依頼内容は?」
「あぁ~、なんだっけか……」
少し考えて、すぐに思い返す。過去の回想はボケ防止にも役立つのだ。寝転がって頭の体操とは、なかなか良い会話である。
「あ、確か狐狸の食い逃げだな」
「その報酬は?」
「その店の品物全部タダ。その日限りだけどな」
本当はもう少しと欲も出たが、ご近所付き合いは大切だ。欲を出し過ぎては、関係にヒビが入る。
「あれ、美味しかったねぇ。ねえ、お金無いから、その店にたかりに行こうよ」
「おお、お前が怪奇事件を起こしてくれるとは優しいね。で、報酬は? くれるんだろ?」
「……ううん。暇だねぇ、平和だねぇ、ひもじいねぇ~」
すぐさま意見を翻した彼女を見て、未然に怪奇事件を一つ防げたことを確信する。オレの活躍は、こんな誰も知らないところでも発揮されているのだ。平和である。
狐狸の事件は、言葉の通り、狐と狸が起こしたものだ。
小さな定食屋で食い逃げをして、それを何とかして欲しいという依頼だったのだ。
まあ、しかしこの程度の事件は日常茶飯事。
事件性が軽すぎて、財閥も相手にしない。
それに、狐狸にとっては『化かす』ことが存在意義でもある。妖魔には悪行そのものが存在意義だという者もいるわけで、それを妨げ過ぎるのは、オレ達人間様の勝手過ぎる都合というわけだ。
もちろん、殺人などの悪行は踏み潰すが、程度の問題だ。生きていくのに必要であるなら、内容によってはある程度折り合いが必要になる。
財閥もその辺は寛大だし、オレも事件が起こってくれるおかげで食いっぱぐれずにすむ。問題だらけと言えなくも無いが、人と人外が共存しているのだ。歩み寄りは円満解決の秘訣である。
で、だ。
「まぁ、これはオレの勝手な都合でもあるわけだが……やっぱ下着くらい履けよ、ユウナ。丸見えだぞ? 客が来たらどうすんだよ」
「えぇ~、いいじゃない。その方が、客も来る様になるでしょ」
そういう問題じゃあないと思うのだが、聞きやしない。
長いスカートを履いているから、普段は良いが、今は本当に丸見えだ。万が一客が来て、卒倒したら仕事が減る。
「やれやれ、仕方がない」
言っても聞かない奴は――。
「おい、出かけるぞ」
「え~」
「さっき言ってた定食屋に」
「行く」
即行で意見を翻した彼女に、よしよしと心の中でほくそ笑む。早速己の立場を理解した様だ。餌付けは大いに効果的である。
前に依頼を受けた定食屋は、近所の寂れた場所に建っている。金額も安く、その上味も良い。色々問題があって客は少ないが、その問題こそがこの街の象徴を表している気がして、オレは好きだ。
それに。
狐狸が食い逃げしたそこは、運が良ければまた化かされているだろう。
そうすれば、また依頼を解決! タダ飯にもありつけて、万事うまくいくってもんだ。
そう、これは、別にたかりではない。必要悪。
存在するのに悪事が意義である妖魔がいる様に、これは必要な妥協というわけだ。
そう。断じて、オレは卑しくない。期待をして何が悪い。タダ飯は崇高だ。
「……くっくっく」
卑しい声を上げ、ユウナが「どうしたこいつ」という目をしていたが、気にしない。
卑し――くない、必要悪の期待を胸に、オレは十分とかからない定食屋へと向かった。
が。
見事に、期待は裏切られた。
「あ、ダメ探偵」
「毎度どうもなのです!」
店では、件の狐と狸が、仲良く並んでご飯を食べていた。当てが外れて、心が腐る。
それよりも、開口一番「ダメ探偵」とは良い度胸だ。後で覚えてろ、狐娘が。
「二人共、今日は普通に食べに来てるんだね」
「そりゃね。いくら『化け狐』だからって、毎回は食い逃げしてらんないよ」
「『化け狸』も同じなのです!」
呑気なユウナの言葉に、澄ました顔で突き放す狐娘と天真爛漫な狸娘。どうやら、本気で金を払って食べるつもりらしい。
完全にお金払い直行のコースを決定付けられ、仕方なしにオレは、建物が軋む音を聞きながらカウンター席を通り過ぎた。
「いらっしゃーい! って、なんだ、探偵の旦那か」
「おいおい、客に向かってそれはないだろ、店主よ」
「まあまあ、座ってくんな。いつものとこ、空いてるよ」
店主が指し示す通り、オレ達は一番奥の指定席へと向かった。
普通は、端っこや奥の席というのは人気だが、オレとユウナの特等席は、常に空席だ。
何故なら。
「いいイイイいぃぃらぁぁッッしゃいままマせぇぇええ。お水をぉぉおぉどどどぅぅぅぞぉぉお」
血だらけの地縛霊が、この席を陣取っているからだ。
故に、誰もこの席には近付かない。近付けない。唸る様な、叫ぶような独特の喋り方に恐怖を覚え、距離を取りまくる客が続出しているというわけだ。
まあ、だがオレは気にもならない。定食屋で相席など普通だし、それに幽霊の彼女が甲斐甲斐しく接待をしてくれるからだ。
「いつもありがとう 、『幽霊』 さん」
「よう。いつも通り、オレとユウナの二人、相席ってことで頼むわ」
「だぁぁぁいぃぃじょぉぉぶ……気にぃぃしてないわぁぁぁ」
自分達の前に水を置いてくれたりと、案外世話焼きだ。このテーブル限定だが、結構便利というか楽で、気に入っている。
こんな風に、この定食屋は色々と人外が住み着いている不思議スポットなのだ。
狐狸が立て続けに食い逃げして騒ぐわ、血塗れの地縛霊がいるわ、家鳴という人外もいて、常に建物が軋むわで、大抵の人間は入った瞬間に逃げる。そして、二度と来ない。
だが、これぞ人と人外が共存している最たる象徴な気がする。
だからこそ、オレはここが気に入っているし、好きなのだ。もちろん、安くて美味いという理由もあるがね。
「さって、と」
メニューを広げ、物色する。
とにもかくにも、まずは注文だ。ここは定番、焼肉定食が良いか。
だが。
「……ふっ」
「どうしたの、十夜」
「いや、……」
そうは思ってみたものの、残念ながら、我が探偵事務所は『質素倹約』が座右の銘。金も無い。平和だからだ。
なので、ここは涙を呑んで。
「店主、卵かけごはん、二つ」
「はいよ」
ぴっと、人差し指と中指を立て、オレは涼しげに嬉々として注文した。
一食200円というその格安はさることながら、味も絶品だ。頼まぬ道理はない。
しかし。
「うわぁ……流石ダメ探偵」
「2つ頼んでも400円なのですよ……貧乏なのです、可哀想なのですよ」
水を差す様に、遠くから、ひそひそと可哀相なものを見る様な囁き声が聞こえてきた。
毒素たっぷりなその刺々しさと憐みの声に、オレはしかし、ふん、と涼やかに鼻息を荒くする。
「うるさいよ、この狐狸娘。お前ら、食い逃げ犯だってこと忘れてないか?」
だが、反論などそよ風とでも言いたげに、あちらも、ふんっと息を吐き出してきやがった。
「化け狐は人間を化かしてなんぼのものよ。それに、罪にはならないしね」
「化け狸もですよー!」
こんの狐狸娘が。
口にしたところで、どうせ倍増で皮肉が返されるだろう。
仕方なしに、オレは自分を心の中だけで正当化した。断じて、負けたわけではない。
そう。これは、質素倹約さ。
あいつらはほんとに見る目が無い。一人一食をたった200円で終わらせることが、どれほど大変なことか。この素晴らしい倹約家を前にして、ダメだダメだと、口だけは達者。これだから若い奴は、分かっちゃいない。
そう。あいつらは、まぁ若い若い。
確か今年で105歳だかで、人間換算すれば、14~17歳程度である。ユウナは300歳ほどで18~23歳程度だ。
つまりは、それだけ若いのだから、質素倹約の偉大さは、説いたところで理解出来るものではないだろう。
言い聞かせ、「オレはダメじゃない、オレはダメじゃない」と念仏の様に唱えていると。
「はいよ、ユウナちゃん出来たよ」
天からの声の様に、店主が卵かけごはんを持ってきてくれた。
どうでも良いが、何故オレには声をかけない。やはり若い娘贔屓か。
「ま、食い逃げのことなら気にしてないさ。自分の娘が食い逃げしてるようなもんだからね。がははは!」
「なら、毎回オレに依頼する必要はないと思うんだがな、店主よ……」
娘と言われて、涼しい顔をしながら喜んでいる狐狸娘を横目に、オレは毒突いた。
しかし、そこは不思議現象に慣れた店主。あっさりと的確に返してきた。
「そうはいかねぇよ、この街の怪奇事件は旦那の仕事だろ」
「だったら、少しはオレに感謝して欲しいもんだねぇ」
「なら仕方ねぇ――今日はご飯おかわり自由! そして一人卵3つまでつけようじゃないか!」
どおん、と三本指を立てて胸を張る店主に、しめた、と小さくガッツポーズをした。「助かるよ」と感謝だけは告げておく。
だが、そのテーブルの下の拳を目撃されたのか、狐狸娘の白い目が、更に白くなった。
「いや、卑し過ぎでしょ、ダメ探偵……」
「なのですよ……」
彼女達の毒に、さしものオレも我慢の限界が来た。大人の威厳というものを思い知らせてやる。
すなわち。
「――家鳴。あの、うるさい狐狸娘の椅子を揺らしてくれ」
ぱきん、と割り箸を割りながら頼めば、その通りに動いてくれた。
がたがたぎしぎしと、瞬く間に騒音が彼女達を中心に巻き起こる。まるであそこだけ局地地震が起きた様に、彼女達ごと椅子がぶれまくった。
「あぁぁあぁぁやめてぇぇぇ!」
「あははは! 揺れるですよー!」
地震の様に激しく揺れる彼女達の椅子に、大人を舐めるなよ、と卵を割ってかき込む。やはり、美味い。これで卵三つとは上々の成果だ。タダ飯ではなくなったが、店主の好意に腹も膨れる。
ユウナも200円の卵かけごはんで満足してくれるとは、いやはや、ちょろい――いや、質素倹約が分かってきている。流石はオレの助手兼使い魔。
しかし。
「あああぁぁぁああああははははは!」
「きゃー! 揺れるー! 揺れるー、ですよー!」
余計に彼女達がうるさくなってしまった。失敗した。耳が痛い。次からは、別の手を考えることにしよう。
店を出て、ユウナと二人で適当に街をぶらついた。
街並みは、一応の平和を見せている。顔見知りに会っても和やかで、怪奇事件が起こっている様子は無い。
今、街を騒がせているのは、恐ろしい強盗集団だ。
そっちも事件に変わりはないが、オレの領分ではないし、それこそ参剋斐財閥率いる治安維持部隊の出番だ。
彼らは優秀だ、任せておけば間違いはない。
オレの事件は、あくまで怪奇の方の事件専門。それこそ、盗み食いから殺人まででも、一般人では解決できない『何か』が関与している場合のみに限る。
「……んー、平和だなぁ」
怪奇事件が発生するどころか、兆しも無い。
テレビで流れていた事件の情報が、どこか不自然だったのだが、杞憂だった様だ。
それなら、それで構わない。争いも起きずに共存していられることが、どれほど大切なことか。身に染みて分かっている。
そうして、安堵と共に事務所に戻ったのだが。
「お久しぶりですね、神門様、神宮様」
扉を開けると、唐突に執事服の男性がオレを出迎えた。
厄介事が入り込んできた。平和が崩れていく音に、オレは肩を竦めて相手になる。
「おいおい、参剋斐財閥当主の付き人が不法侵入かい?」
「相変わらず神門様はご冗談がお上手ですね。この事務所は我が当主様がご用意なさったものです。維持費等も当主様が支払っております。 権利者も当主様です。従って、不法ではありませんよ」
「この際だから、オレ達の維持費も当主様が払ってくれてもいいんだぜ?」
「そうよ! そうよ! 今日だって卵かけご飯なんだからね!」
「それは出来かねます、契約違反になってしまいますので」
至極真面目な顔で、男性が論破していく。
この、冗談も通じ無さそうな彼は、参剋斐財閥当主の秘書みたいなものだ。彼が来たということは、オレの出番を意味する。
「さて、雑談はここまでに致しましょう。街で怪奇事件が発生致しました、即時解決して下さい神門様」
何となく予想していた内容に、しかし眉が寄る。
先程ののどかな街並みとは程遠い真実に、懐疑的になった。
「それは本当か? 今し方、街で情報収集してきたが、そんな話は一つも聞かない。起きてるのは強盗事件だけだ」
「はい、その通りでございます。その強盗事件こそが、『今回の依頼』でございます」
言われて、咄嗟に返せなかった。
出かける前のテレビのニュースを思い出す。どこか不自然だと引っかかった原因が舞い込んできたということか。
「なあ。それは、治安維持部隊の領分じゃないのか?」
「いいえ。どうか神門様、いつもの様にお屋敷で当主様より詳しいお話を」
不自然さが現実に形となり、やれやれともう一度肩を竦めた。財閥の当主からお迎えがやってくるのはいつものことだが、今回は少し状況が異なる。
だが、彼は強盗事件を怪奇事件の様に宣っている。
久しぶりのまともな依頼だ。素直に従うのが妥当かと、ユウナを振り返った。
「うん、行こうよ~。お金!」
その一言で、即決した。
そうして事務所の外に出れば、タイミング良く迎えの車が、オレ達の前で静かに停車する。いつもながら、不気味なほどのタイミングの良さだ。恐い。
「なぁ。いつも思うんだが、何で事務所前に停めておかないんだ?」
「参剋斐財閥に仕える者が、駐車違反をするわけにはいきませんから」
至極真面目な返答に、返す言葉も無い。
「あっそ……。律儀なんだな、お前さん」
「お褒めの言葉有難うございます。さぁお車へどうぞ……」
雑談をしながら、オレ達はふかふかのシートに入り込む。ぼふん、と柔らかく受け止めてくれる感触が、また金がある良い仕事をしている。
そうして、オレとユウナは、参剋斐財閥当主が待つ屋敷へと赴くのであった。
これから起こる、怪奇事件の恐ろしさも知らずに。
『第1話 怪奇事件はいつも “此処” から始まる』~終
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