第4話 摂氏90℃のドーナッツ・ソング
江戸の中心はどこだったのだろうか。
江戸城、と答えるのが一般的か。地理的・政治的には間違いではないのだろう。ある本ではその解として、「富士山」と答えていた。当時の風刺画などには描かれるはずのない構図・大きさで富士山が描かれている作品が多く、中には江戸城が恐縮してしまっているほどに両者に開きがあるものがあったことを、その主張の根拠としていた。
江戸は列島最大の都市でありながら、その中心は外部にあった。ドーナッツさながらに、中心が不在になっているのである。日本人は中心を空洞化させることを好む。伊勢神宮の中心にだって、そこには何もない。
さて、江戸討幕から百数十年。
東京の中心地には皇居が鎮座しているが、それも1つのドーナッツ。そんな環状の中、油に揚げられたかのように灼熱を楽しむ私たちサウナ―も、そういった1つのドーナッツを楽しんでいる、と言うのも言い過ぎとは言えない、とは言い過ぎか。
サウナ文化もドーナッツ。そう考えてみることにしよう。
サウナ室が中心にありながら、それは単なる苦行か我慢。その後に待つ、水風呂や外気浴での「整い」を求めてサウナ浴を楽しむサウナ―にとっては、サウナ浴の中心に鎮座するサウナ室とは灼熱の空洞ともいえるのではないか。ロウリュがもたらす「ジュッ」という響き、それはさながら1つの曲、摂氏90℃のドーナッツ・ソングだ。僕はツイスト・君にはハニーディップ・最後は二人でエンゼルクリーム。
といったところで綺麗にオチた(と私は思っている)。
ので、少しばかりサウナ室に関する思いを、ちょっと語りたい。
この空洞には様々なタイプがあることは1話前出。乾式と湿式に大別でき、その中でも塩や薬草などのギミックに富んだタイプから、韓国のハンギュウンマクやロシアのバーニャなど各国の特色的なもの。蒸気浴と言う観点から見れば、秋田県の後生掛温泉「箱蒸風呂」などの蒸風呂もサウナとみてもいいのかもしれない。鹿児島県の指宿温泉「砂湯」はちょっと違うか…などと、サウナって何だ?などと考える時間が好きだ。それだけでちょっと整ってしまいそうな気さえする。
そういった中で、日本国内において一般的なサウナとして扱われているのは、フィンランド式の乾式サウナ。大体、80℃後半~90℃中盤くらいが多いか。そして湿度は中くらい。けれども、中には100℃近いところもあり、そういったサウナ施設のことはサウナ―たちからは「昭和ストロング」と呼ばれている(らしい)。
じゃあ、温度と湿度だけがサウナ室の良し悪しを図る基準かと言えば、そうでもない。熱機関としてガスストーブとサウナストーンのどちらを使っているか、四方を覆うのは木材かタイルか、漆喰か。椅子に敷かれたタオルは定期的に交換され清潔か。セルフロウリュは可能か、それとも30分に1度などのオートロウリュがあるのか云々云々、枚挙に暇がない。
2話にて申し上げた通り、私は水風呂を最も重要視する。ゆえに、私はサウナ室にはさほど頓着がなく、正直、乾湿であればどこでも良い、くらいの所感である。
ただ、それでもお気に入りの1店舗というものはあり、それが鶯谷「サウナセンター」だ。中温中湿、サウナストーンによって熱せられた室内は正方形に近い台形となっており、何だか宗教的な威厳すら備わる。そのうえ、セルフロウリュも可能、2時間おきにアウフグースとまであれば、最高かよ、とロウリュのたびに零してしまっても仕方がない。ということで蛇足はこれまで、筆をおく。
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