エピローグ(その2)

「おっ、いたいた」

 ヴァレンティア城を歩いていると、龍野は戦友を見つけた。

「おう、ハーゲン」

「おう、龍野。一週間ぶりだな」

「ああ、報告書の作成が忙しかったからな。そういうハーゲンも、どうした? 少しやつれてんじゃねえか」

「ハハ、まあな……。ネーゼ様とリオネが……」

 そこまで言われて、龍野も言わんとする内容を察した。

「お互い、大変だな……」



 機動兵器ゼクローザスの操縦士ドールマスターであるハーゲン少尉。 今回の依頼において積極的に活動し、数々の武勲を上げ、かつ騒動の収束に一役買った彼は、残念ながら手柄は認められなかった。

 だがそんな事がどうでもよくなるくらいに、彼はヴァレンティア城に滞在できるのを光栄に思っていた。とはいっても、原因はアルマ帝国に帰投するための転送ゲートが故障し、復旧まで時間がかかるため、であったが。

 それでもここに来た彼は、普段とは比べ物にならない待遇で疲れを癒していた。が、やはりあるじであるネーゼには思うところがあったのだろう。時々彼女の部屋に行き、二人きりで言葉を交わすことがある。もっとも、ネーゼからのスキンシップは、言葉を交わす程度で済みはしなかった。

 お陰で、いつも以上に肉類をほっしてしまっていたが、それはまた別の話である。



「じゃあな、龍野」

「ああ、じゃあなハーゲン」

 二人は軽い挨拶を交わし合い、それぞれのあるじの元へ向かった。


     *


「ごきげんよう、ネーゼ姫殿下」

「ごきげんよう、ヴァイス姫殿下」

 ヴァイスとネーゼは、廊下ですれ違った。

「気に入っていただけたかしら? 我らがヴァレンティア城は」

「ええ、最高よ。けれど、こんな場所で立ち話もなんですから……わたくしがお借りしている部屋に、いらっしゃらない?」

「ええ、よくってよ」



 ハーゲン少尉のあるじであり、アルマ帝国第一皇女であるネーゼ・アルマ・ウェーバーは、かつての恋人であったハーゲンの無事を喜んでいた。

 時折部屋に訪れるハーゲンと言葉を交わし合い、互いの存在を確認していた。もっとも、彼女はそれだけでは飽き足らず、毎夜ハーゲンの部屋にこっそりお邪魔しているのだが。



「もう一時間経ってしまいましたわ」

「うふふ、早いものですわね。ヴァイス姫殿下」

 満足するまで会話を続けた二人は、互いに「では、ごきげんよう」と挨拶を交わした。

 そしてヴァイスはネーゼの部屋を後にし、自らの騎士の元へと向かった。



「ヴァイスシルト姫殿下!」

 廊下でヴァイスを呼び止める声だ。

「あら、あなたはハーゲンの……」

「ええ、専属医師のリオネでございます!」

「ちょうど良かったわ。おやつの時間にしない?」

「はい、喜んで!」



 ハーゲンの専属医師であるリオネは、ネーゼと同じくハーゲンの無事を喜んでいた。

 時折ハーゲンの部屋に行き、たわいもない会話を繰り広げる事が、ヴァレンティア城に来てからの彼女の喜びとなっていた。

 もっとも彼女もネーゼと同じく、毎夜ハーゲンの部屋にこっそりお邪魔している。そしてうっかりネーゼと鉢合わせた際は、ハーゲンそっちのけでケンカを繰り広げる。だが、そんな間柄あいだがらも悪くないと、ネーゼに対する評価は上がりつつあるようだった。



「ごちそうさまでした!」

「うふふ。またいつでもいらしてね」

 二人はお菓子を食べ終えると、挨拶をして別れた。

「うふふ、それでは……」

 ヴァイスもまた、別の客人の姿を見に行くことにした。

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