エピローグとあとがき

エピローグ(その1)

 あの事件から、一週間後。

 龍野とヴァイスは、山積みの報告書を本部に提出し終えたばかりだった。

「思えば、長い30時間だったな……ヴァイス」

「そうね」

 帰りのリムジンで、龍野は騒動の結末を振り返っていた。


     *


 超大型機体改め、トーマス・スマートフォンを撃破した直後。

「あっ、オーロラが……」

 ヴァイスの一言で、全員が空を見上げる。

 異界電力ベイエリアを覆っていた謎のオーロラが消滅し、出入りが可能となった。どうやら、トーマスが『パラダイス・エンジン・システム』を取り込んでいたため、撃破と同時に収束したようだ(ちなみに「トーマスが甦ったのも、このシステムの暴走によるものだった」と、二人は報告書に記した)。

「終わったのですね……」

 ネーゼの言葉の後に、全員が騒動の決着を実感した。

 その一時間後、近くの駐屯地から派遣された自衛隊や警察などがベイエリアに上陸した。今回の騒動が公に出るのは、そう遠くない日のことだろう。

 龍野達も自衛隊員に発見され、プライベートジェットまで護衛してもらった。もっとも、先に事情聴取は受けたが。


 そしてヴァレンティア城に帰った2人は、8人の来客を迎え入れた。ほとぼりが冷めるまで、ヴァレンティアで休養していてもらうことにしたのだ。

 もっとも龍野とヴァイスは、調査の結果報告として連日報告書作成に追われていたため、休養の暇など無かったのだが。


     *


 ヴァレンティア城に戻った二人は、峰華に出迎えられた。

「おかえり……!」

「ああ。ただいま」

 龍野がしゃがみ、峰華を抱きしめる。

「うふふ、待っててくれたのね」

 そんな光景を見ていたヴァイスは、優しく微笑んだ。



 サイボーグのZ型である峰華は、本来ベイエリアから出られないはずだった。出ようものなら、四肢、それに首に取り付けたリング、通称動物園ズーゾーンが爆発して機能停止させられる。しかも体内に埋め込まれていたため、自分で取り出すことも出来なかった。

 しかし峰華の場合、ハナノに動物園ズーゾーンの機能を止めてもらっていたために、ベイエリアから出ても何ともなかったのだ。その後、安全のためにリングは全て摘出されている。

 現在は里親募集中の孤児という立場となっているが、峰華は二人と一緒に過ごしたいらしい。



 峰華を抱きかかえたままの龍野は、遊び(とケンカ)相手であるゾン子の部屋に行った。

「入るぞ」

 インターフォンでそう告げた龍野は、カードキーで扉を解錠し、中に入った。

 だが、中にはハナダもいた。

「見つけたぞ、異世界の死体!」

「ゾン子だ! ああもう、またかくれんぼで負けちゃったよ……!」



 ハナノによってマイクロチップ入りコーヒーを飲まされたゾン子ことアイダ=ヴェド=エジリ=フレーダは、四六時中、位置を特定されることとなってしまった。

 お陰で、ハナダ相手のかくれんぼ(隠れる側)で百戦百敗している。

 だが、戦乱から離れた一時の日常を「悪くない」と思っていた。



「ゾン子ー。別の遊び相手を連れてきたぞ」

 峰華を降ろした龍野は、ハナダに向き直る。早速二人の取っ組み合いの音が聞こえるが、いつものことなので相手にしなかった。

「ここの住み心地はいかがですか?」

 相手は客人、龍野は騎士だ。そして客人は王族に次いで丁重にもてなされる以上、龍野の立場が下だった。

「ああ、最高だぜ」



 「カンパニー」社長、オルガノ・ハナダ。

 『パラダイス・エンジン・システム』という地獄から逃れることの叶った彼は、当分の間、ヴァレンティア城に滞在することとなった。

 療養目的ではあるが、ある程度の自由行動は許されている。

 再び彼が社長の座に就くのは、そう遠くない話だった。



「さて、それじゃ……」

 龍野はヴァレンティア城に滞在している、別の客人の姿を見に行くことにした。

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