最終決戦(その4)

「なっ……!」

「で、でけえ……!」

 0番エリアの大半を飲み込む巨体。


 出現と同時に、一瞬で周辺の施設を壊滅させた。


「だけど、やるしかねえぜ……!」

「ああ……!」

 龍野は大剣を構え、ビームを頭部に連射する。

 ハーゲンもまた、ゼクローザスを跳躍させて斬撃を決める。

 だが、どちらの一撃もまるで効いていない。

 トーマスは、いや超大型の機体は、拳を振り上げて地面を殴りつける。

 圧倒的な衝撃波が、龍野とハーゲンを襲った。

「ぐっ……!」

「クソッ……!」

 二人は衝撃波に吹き飛ばされ、態勢を大きく崩した。だが、追撃は来ない。

『やっぱ、鈍いわな……!』

『だが、弱点になってないぞ……! このままだと……!』

 超が付くほどの巨体に、攻略法を見つけられていない二人だった。


     *


「ぐっ……!」

「ああっ……!」

 全速力で退避していた一行は、衝撃波を受けて吹き飛ばされる。距離が十分に離れていたため、負傷は無かった。

「何ですの、あれは……! ハーゲン、どうか死なないで……!」

 ネーゼが指したのは、龍野達が戦っている巨大な機体だ。

「龍野君も戦ってくれているけれど、あのままだと……!」

 ヴァイスも、龍野の身を案ずることしか出来ない。

 だが、彼女だけは違った。


「助けに行こうぜー!」


 そう言ったのは、ゾン子だった。

「助けに!? 無茶だ!」

「無謀です!」

 ヘリのパイロットと金森が止める。無謀な賭けであった。しかし。


「いえ、良案でございます! 行きましょう!」


 ハナノが、名乗りを上げた。

「ハナノ様!?」

 驚愕するヴァイスだが、ハナノは気にせず話し続けた。

「今あれを放置していては、どの道我々は助かりません! ならば、我々の出来る最善の策を行使するまででございます!」

「そうだそうだ、言ったれハナノちゃーん!」

 思いがけぬハナノの応援に、意気込むゾン子。

「わかりました、ではわたくしも行きましょう!」

「ええ、わたくしも。して、ゾン子とやら。一体、どのような方法で?」

 ヴァイスとネーゼも、名乗りを上げた。

「その前に、お姫様方。近くには、何がありますか?」

「何と言われましても、、でございますが……」

 ヴァイスが、当然の事実を答えた。

「そう! 海でございます! だったら……こうすればいいのさ!」

 ゾン子が目をつぶり、何やら念じ始める。


 すると、海が蛇のような姿を取ってゾン子達に向かい始めた。


「皆様、退避を!」

 金森達に向けて指示をする。

 五秒後、四人の体は四匹の蛇に持ち上げられた。

「おねがい……!」

 遠くで、峰華がゾン子に一言だけ言った。

「わかってるよ! それよりも、見直したでしょー? ハナノ」

「ええ、驚きでございます。ゾン子様」

「ほら、そろそろ着くよ! ひゃっほー!」

 ゾン子の能力により、蛇達は鎌首かまくびをもたげたまま制止した。

『龍野君!』

『ハーゲン!』

 二人の姫が、それぞれの騎士に念話で呼びかける。

『ヴァイス!? 危険だ、離れてろ!』

『ネーゼ様!? ここは危険です、早く退避を!』

 予想外の事態に動揺を隠せない、二人の騎士。

 その様子を尻目に、ハナノはゾン子に耳打ちした。

「ゾン子様」

「何よ、ハナノ?」

「私を、あの機体と接触する位置まで運んでくださいませ」

「いいけど、アイツに潰されて死ぬよ? ハナノ」

 いつもの調子で話すゾン子。

 だが、わずかながら涙声となっていた。

「構いません(最早もはや使命を果たした今、命など惜しいものでございましょうか……!)」

「わかった。行ってこい……!」

「喜んで……!」

 ハナノはゾン子に見送られると、超大型機体の胴体まで蛇に運ばれていった。


(よし、取り付けました! 解析開始……!)

 ハナノが機体にしがみつき、構成の解析を始めた。

(装甲は無数のサイボーグの残骸からなる――!)

 その様子を見た龍野が、ハナノを止めに入る。

「やめろ、ハナノさん! 死ぬぞ!」

「いえ、これしか方法が無いのです……!(内部の構造も同様! 回路も、サイボーグの残骸を再構成した産物! だが、さほど複雑ではない――!)」

 ハナノの様子に気づいた機体が、振り落とそうと体をゆする。

「うおっ! やめろハナノ、いいから……!」

「そうは行きません、ハーゲン様……!(弱点を探知! 人間でいう、脳幹の位置に相当する箇所――!)」

 それでもハナノは、懸命にしがみついていた。


「お二方、弱点をお伝えします! 脳幹です!」


 そう言い終えた直後、高度250mから振り落とされたハナノ。

「ハナノ様!」

 ヴァイスが鎧騎士と化して救助に向かう。だが。


 超大型機体は、蚊を潰すようにハナノを潰した。


「ハナノ様……ッ!」

 ハナノが、いや――ハナノのが、掌よりパラパラと落ちていった。


     *


「てめえ……ッ!」

「くっ……必ずかたきは取ってやる、ハナノ……!」

 世話になった人間の……いや、サイボーグの死に、二人の騎士とその姫は怒髪天を衝いた。

「ハナノ……! この野郎、よくも……!」

 そしてそれは、ゾン子も例外ではなかった。

「引き倒せ……!」

 四匹の蛇達を操ると、超大型機体の足元に絡みついた。

 機体は慌てて引き離そうとするが、水ゆえに掴むことが出来ない。

「やれ……!」

 ゾン子の更なる指示により、機体を地面に引き倒した。

 うつ伏せになる超大型機体。地面に倒れた結果生じた衝撃波が、周囲をはしる。

「今更、その程度……!」

「無駄ですわよ……!」

 だが、周囲にいた龍野、ハーゲン、ヴァイス、ネーゼの四人は、各々防御策を取っていた。無傷である。

「今だ! ハナノを殺したこいつを、殺してくれ!」

 ゾン子がタリスマンを限界まで酷使しながら、心からの願いを叫ぶ。

「ああ! いくぞ、ハーゲン!」

「わかってるとも、龍野!」

 そして二人の騎士は、それぞれの光剣を生み出し、構える。

 必死にもがく超大型機体だが、蛇達の拘束力がまさっていた。

「お願い、龍野君!」

「お願い、ハーゲン!」

 二人の姫も、それぞれの騎士の勝利を信じる。

 そして、一歩を踏み出した騎士達は――


「「これで、終わりだぁああああああああッ!」」


 コアとなった脳幹を、いや機体を貫き、脱出した。

 この瞬間、超大型機体は0番エリアの中央で残骸と化し、トーマスの野望もここについえたのだった。



現在の龍野の撃破スコア(最終報告)……9,999体(9,999,000点)

※合体したサイボーグ達の総計である。なお、既に機能停止していた機体は除外している。



作者による追伸


 有原です。

 次回からは、エピローグでございます。

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