最終決戦(その1)

「ここは……」

 異様な雰囲気の中枢部に、圧倒される龍野。

「いよいよ、ね」

 ヴァイスが、改めて気を引き締める一言を放つ。

「で、どれが『スネアー』だ?」

「ワインレッド色のパーツよ」

「あれか」

 『スネアー』。ハナダをシステムに拘束し、地獄を繰り返させる悪魔の機械。

「破壊するぜ」

「お待ちくださいませ」

 意気込む龍野を引き止めたのは、ハナノであった。

「騎士様。恐れ入りますが、峰華様をお預かりいたします」

 口調こそ丁寧だが、何かを察したハナノの意思は有無を言わせぬ様子だ。

 峰華の首に右手を添え、目を閉じたハナノ。

「ハナノさん……?」

 いぶかる龍野。

も、失礼いたします」

 同じ動きを四回繰り返したハナノは、龍野に向き直った。

「これで、

「どういうこった?」

「全ては終わった後にわかることでございます。騎士様」

 ハナノは龍野の質問をはぐらかしつつも、元の持ち場に戻った。

「では龍野君、改めて『スネアー』を――」

「そぉい!」

 龍野よりも速く、ゾン子が『スネアー』を攻撃する。水のレーザービームだ。

 だが、あらぬ方向に弾かれた。

「にゃ!?」

 ビームが角度を変えた辺りには――


 スーツ姿の、男がいた。


「危ないなあ、ゾン子。いや、アイダ=ヴェド=エジリ=フレーダ」

「なっ!? お前、どうしてアタシの名前を!? そもそも誰だよ!」

「さあ、誰だろうなあ?」

 飄々とした男。だが、ただならぬ気配をたずさえ ていた。

「誰でもいいぜ。邪魔するなら、容赦しねえ!」

 龍野は大剣を構え、男にビームを放つ。

「ッ――」

 あっけなく、男はビームに呑まれた。死体がドサリと音を立て、地面に叩きつけられる。

「そんなものか」

「それじゃあ、死体を検分しちゃ――」


 ゾン子が男に近づくと、男は一瞬で起き上がってゾン子の首を払った。


 スーツの隙間から、やいばが左手の甲を覆うように伸びている。ゾン子の血が、へばりついていた。

「まあ、様子見としてはこんなもんだね」

 空いている右手で、スーツの内側に隠した拳銃をホルスターから抜き、構える。

「念入りだよ」

 一発の銃声の後、ゾン子の頭部が吹き飛んだ。

「こうでもしなきゃ、邪魔されちゃうからね。それじゃあ、黒騎士サマ。お相手つかまつってちょうだい」

 男は一方的に告げると素早くけ、一気に間合いを詰めてきた。

「なんの!」

 大剣を構え、レーザーを撃つ龍野。

 しかし照射直前に、狙いを外される。

(やっぱ、二度も通用しねえか……!)

 大剣を構え、近接距離で迎撃する。

「おっと」

 だが男はしれっとした様子で、手にした拳銃を撃ってきた。

 銃弾は障壁で防御されるが、大きく亀裂が入る。

「流石は黒騎士サマのお力だ。だが」

 左手を軽く引いた男は、手刀を突く要領で連続攻撃を仕掛ける。

「ふっ、はっ、せいっ……てね!」

 三連続の攻撃から、油断させて四撃目を放つ。

 近距離用の障壁(体形に合わせて形状変化する)が展開するが、やはり大きく損傷した。

「やるね……じゃあこれはどうかな!」

 男が蹴りを放ち、

「ぐっ……!」

 うめき声をあげ、地べたに横になった龍野。

(対魔力化……!)

 男の靴を見たヴァイスは、今までの経験からの判断を下した。

「援護射撃!」

 ヴァイス、パイロットとサブパイロット、ハナノの4人が、手にした射撃武器を男に撃ち込む。

 男は避ける間も無く、血をまき散らしながら肉塊と化した。

「龍野君……!」

「来るな、ヴァイス……!」

 だが、

「あと七発~」

 余裕をたたえた声に続いて、三連続で銃声が響く。

「ッ!」

 パイロット、サブパイロット、ハナノの手を的確に撃ち抜き、銃を取り落とさせた。

「お姫サマには特別サービス」

 続いて、四連続で銃声が響いた。

「……ッ!」

 一発目、二発目、三発目で障壁を削り――


 四発目で、ヴァイスの胸に命中した。

「あぁッ!」

 悲鳴を上げ、倒れるヴァイス。彼女の鎧には、

「ッ……! クソ、がっ……!」

 龍野が叫ぶも、男は余裕の表情を浮かべて弾倉を交換する。

「それじゃ、お姫サマも倒したことだし。黒騎士サマにも、後を追ってもらうとするかね」

 空中に浮き、狙いを定める男。

 龍野は必死に手を伸ばすが、照準を狂わせる速度の動きではない。

「ダメッ!」

 そこに、峰華が立ち塞がった。

「やめ、ろ……峰華!」

 龍野が下がらせようとするが、峰華は聞く耳を持たない。

「おお、大した気概だ。俺達に逆らってまで、黒騎士サマを助けようとするとはね」

 だが、男は意に介さなかった。

「それじゃあ、裏切り者よ。黒騎士サマと共にさようなら」

 男が引き金に指を掛けた直後――


 9mm弾が、男の手を撃ち抜いた。


「!?」

 男が振り向いた先には――ラナがいた。

「これ以上はさせません!」

 ランドセル状のロケットを吹かしながら、UZIの銃口を合わせ続けるラナ。

「無事か、龍野!?」

 続いて、ゼクローザスに乗ったハーゲン、4WDに乗ったネーゼ、リオネ、金森の増援が来た。同時に、ラナがゼクローザスの肩に乗る。

「来て、くれたのか……!(あのサイボーグ……味方、か……!)」

 ようやく起き上がった龍野は、安堵の声を漏らした。

「ヴァイスシルト姫殿下!」

 ネーゼが4WDから降り、急いでヴァイスの元に駆け寄る。

「まさか……えっ?」

 首元に手を当てる。だが、見た目からは信じられない感覚に驚愕した。


のですか……! それも、……!」


「ん……」

 ヴァイスは眠りから覚めたような声を上げ、ゆっくりと目を開き始める。

 ネーゼが告げたヴァイス生存の報。それを聞いた龍野は、更に安堵した。

「良かった……」

『おい』

 内心で胸を撫でおろしていると、念話がかかった。

『お前、俺のヴァイスに何してくれやがる!』

『落ち着け。あんたに告げることがあるんだよ、黒騎士サマ』

 先ほどまで殺し合っていた男からの、突然の念話。

 龍野は警戒心を最大にしながら、耳を傾けた。

『これはだ。ヤツへの、な』

『ヤツ?』


『トーマス=スマートフォンだ』


 男は念話で、異界電力社長の名前を告げた。



現在の龍野の撃破スコア……259体(259,000点)

※サイボーグとの戦闘が無いため、変動無し


騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンの残弾(途中経過)

※弾薬を消費していないため、変動無し


      マシンガン…… 175 + 200×2 発


      グレネード…… 1 + 3×2 発



作者による追伸


 有原です。

 何故、ヴァイスは撃たれても生きていたのでしょう? 何故、男は龍野に意味深長な言葉を投げかけたのでしょう?

 答えは次回、判明いたします。


 さあ、最終決戦編の続き、ご期待くださいませ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る