発電所突入(龍野視点その1)

「どけ!」

 龍野は道を塞ぐA型、C型の混成部隊8体を、マシンガンとロケットグレネードで確実に排除する。

「この奥だな、ヴァイス?」

「ええ」

 一行は、『パラダイス・エンジン・システム』に直通で行けるエレベーターを目指していた。

「見つけたわ、龍野君! あのエレベーターよ!」

 ヴァイスが指したのは、天井の無いエレベーターであった。

「あのでかいやつか!」

「ええ!」

 龍野は迫る雑多な敵をマシンガンで蹴散らしながら、エレベーターの上に飛び乗った。

「操作を頼む!」

 マシンガンやロケットグレネードを発射し、足止め役を買って出る龍野。敵との距離が近づくと、マシンガンを収納して大剣を召喚した。

「あとどのくらいだ!?」

 迫るサイボーグを、魔力を纏った大剣で次々と切り裂く龍野。その残骸は、もはやバリケードと見紛みまがうほどまで積みあがっていた。

「龍野君、援護するわ!」

 ヴァイスも氷剣を召喚し、加勢する。

 二人の鎧騎士が、巨大な残骸の山を築き上げた頃――

「終わりました、動かします! 口を閉じて!」

 パイロットからの報告が来た。遅れて、ガコンという音と衝撃が5人を襲う。

「うおっ!」

 衝撃に体の平衡感覚を失いかけた龍野だが、すぐに態勢を立て直す。

「まだだ! 上から飛び乗ってくるぞ!」

 そして警戒を解かないまま、一行は地下百数メートルまで降下した。


「全員無事だな?」

 エレベーターが地下で止まった。龍野達の周囲には、サイボーグの残骸がこれでもかというほどに積みあがっている。言うまでもなく、龍野とヴァイスが積み上げた残骸だ。

「ええ、無事でございます」

 ハナノを始め、他の3人も続々と無事を知らせる報告を入れる。

「よし、それじゃあ行くぜ」

 龍野はエレベーターを降り、最深部へ向かって進み始めた。


「うわ、ここでも悲惨な目に……」

 通り抜ける最中、龍野は所員の死体を目にする。漏れなく血痕付きであった。

(ん……? この死体だけ、比較的キレイだ……。サイボーグにやられたワケじゃなさそうだな。毒でも飲んだのか?)

 龍野が死体の一つに疑問を抱く。

 すると――


「好きでこんな格好してんじゃねえええぇぇぇええ――!!!!」


 という女性の絶叫。同時に、ドシャアンという派手な水音が鼓膜を震わせた。

「おい、ヴァイス。聞こえたか?」

「ええ。生存者の可能性があるわね。残り時間はわからないけれど、寄り道するわよ!」

「わかった!」

 ヴァイスの素早い決断に従い、龍野は地面に据え付けられた鉄の扉を開けて内部に入った。

「皆様も、ついて来てくださいませ」

 ヴァイスも龍野に続く。その後、3人も続いて扉に入った。


「ヴァイス、生存者とはどのくらいで合流する?」

「そこの角を右折して、50mよ」

 龍野達は、下水道と思しき場所にいた。

 しかし、下水道にしてはよく澄んだ水が、足元を満たしていた。発電所の冷却水に回すものと思われる。

「奇妙だな……。おっと、生存者を見つけたぜ。2。どっちも女性、しかも一人は女の子だ(だが、この反応……サイボーグか? まあいい、助けるのが先だ!)」

「鎧騎士の状態を解除して、接触をお願い」

「ああ」

 龍野はレガースだけを残しつつ、駆け足で二人の元まで向かう。

(なっ……何してんだ!?)


 そこでは青白い肌の女性が、バスローブを羽織った幼女を襲う光景があった。


「おら、暴れんなっ! バスローブが脱がせづらいだろうが!!」

 絶叫し、幼女のバスローブをはぎ取ろうとする女性。

 これはいけないと思った龍野は、わざと足音を大きく立てて走った。

「あ?」

 龍野が青白い肌の女性を見る。


 その女性は、パンツ一丁の姿であった。


「なっ――!」

 慌てて目を背けるが、もう遅い。

「――――――っっ!」

 短い悲鳴の後、女性は身体を隠しながら駆け出した。

 その様子を見て取った龍野は、幼女に声をかける。

「おい、大丈夫か?(とんでもねえもん見ちまった……! ヴァイスと風呂入って以来だぜ、女の裸ってのはよ……!)」

 幼女は一言すらも発さなかった。


 代わりに、龍野に抱きついてきたのだ。


「おっと! そうかそうか、怖かったなあ。だけどもう大丈夫だ。俺が来たからには、変なヤツには指一本触れさせねえ」

 龍野が幼女の頭を撫でながら、落ち着かせる。

 そして、追いはぎを大音声だいおんじょうで怒鳴りつけた。

「おら、そこに隠れたゾンビ女! 出てこい!」

「ゾンビ女って言うな、ゾン子って呼べ!」

 隠れた女性も、壁から顔だけひょっこりと出す。

「つーか服をくれよ、服を!」

 体は青白いのに、顔は真っ赤だった。龍野に対して猛抗議するゾン子。

「大丈夫、龍野君!?」

 そこに、ヴァイス達4人が合流した。ヴァイスも足元にレガースを装備している。

「ああ、大丈夫だ。それよりも、そこのゾンビ女に――」

「ゾ・ン・子!」

「ゾン子とかいう女に、服を持ってきてやってくれ」

「でしたら私が、失敬したものを」

 ハナノが目を背けながら、ゾン子に服を手渡す。

 比較的キレイな研究員の死体からはぎ取った、白衣だった。

「ふう、無いよりはマシだな……ありがと」

「いえいえ」

「名前、何てーのなんていうの?」

「ガロウダ・ハナノと申します。ハナノとお呼びくださいませ」

 ハナノはゾン子に対しても、いつものように話していた。

「ハナノ……ハナノね。わかった」

 ゾン子はハナノの名前を繰り返すと、にへらと笑った。

「そうだハナノ、何かあったかいもん無い?」

「ございます。熱いコーヒーが入っておりますので、ポットごとどうぞ」

 ハナノが手渡したのは、熱々コーヒー入りの魔法瓶だった。

「ありがと……ってアヂヂッ!」

 死体故の鈍い感覚でも感じ取れるほどの、熱いコーヒーだった。あわてて「ふーふー」と冷まし始める。

 その様子を見ていた幼女が、笑顔を浮かべた。

「おっ? 面白がってんだな、お前」

 龍野があやすと、ヴァイスが幼女を問い詰めた。

「貴方、サイボーグよね?」

「なっ、ヴァイス!?」

「龍野君、彼女から『サイボーグであることを示す反応』があるわ」

「ま、待てよヴァイス! そうかもしれねえけど、武器は手に持ってねえだろ!?」

 龍野が幼女をかばう。

 するとそれを見た幼女が、ヴァイスに抱きついた。

「ええ、無いわ。けれどいつ、敵対するか――えっ!?(おかしいわね……故障はしないはずなのに、ちゃんと質感だけは人間だわ。それに……)」

 ヴァイスの胸に顔をうずめる幼女。

「待って、くすぐったいってば!(それに、可愛い! 一体何なのでしょう、この子は!)」

 ヴァイスが慌てて引き離すと、幼女は名残惜しそうな涙目で、ヴァイスをじっと見た。

 それを見たヴァイスが、龍野に向き直る。


「うん、龍野君ごめんなさい。彼女がサイボーグかどうか、どうでもよくなったわ」


「だろ? 薄々俺も気づいてはいたけどよ、どうでもいいだろ?」

「そうね、うふふ」

 二人は談笑していた。


 ゾン子がようやくコーヒー冷まし、飲む様子を見ていたハナノ。

 一人、内心で思考を重ねていた。

(人間の8人にも、そしてにも、マイクロチップ入りコーヒーを飲ませました。人間に仕込んだチップは数時間で排泄されますが、あのゾンビ娘には例外的に接着し、固定されるです。ハナダ様、並びにハンナ様。ついに、座標を特定しましたよ……)

 表情を動かさぬまま、しかし彼独自の計略は進んでいた。



現在の龍野の撃破スコア……259体(259,000点)


騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンの残弾(途中経過)


      マシンガン…… 175 + 200×2 発


      グレネード…… 1 + 3×2 発



作者による追伸


 有原です。

 ビト様、コラボの許可を下さり、ありがとうございます。


 次回は一旦自己紹介の回でございます。

 その後、ハーゲンサイドも書いて、最終決戦に移ります。

 ところでハナノと前回出てきたスーツ姿の男は、一体何を考えているのやら……。

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