マトリョーシカな悪夢(終盤その3)

「全員2階へ退避!」

 反射に等しい反応で、ヴァイスが指示を出す。

 しかし逃げ遅れたヴァイスだけは、重機関銃の雨を受けた。

(どうやら、銃弾に対魔力の効果は無いようね。それにしても、何てサイボーグの数……。悪夢が、まるでマトリョーシカのように幾層いくそうにも積み重なっているわね……)

 障壁で防ぎつつ、魔力を噴射して後退する。

(もっとも、私達『水』の障壁は堅牢だから、しばらくはもつでしょうけど……やはり、出来れば使いたくないものね)

 2階まで撤退し、7人と合流するヴァイス。そのまま敵の位置情報を把握し、なるべく接触しないような移動ルートを検討した。

「皆様、正面入り口エントランス付近の自動エスカレーター付近が手薄です。そこから脱出しましょう。ついて来てくださいませ!」

 決断は速かった。

 極力音を立てず、サイボーグ達からの視界から隠れて移動を再開する。鎧の音は仕方無いが、足音だけは隠そうとした。

(お願い……龍野君、来て!)

 隠れながら、ヴァイスは黒騎士の到着を祈った。


「ふうっ……。ようやく着いたぜ」

 一方、降下を終えた龍野は、素早く裏側の入り口エントランスからビルに入り直した。

(げっ、M型かよ!)

 内心でげんなりしつつ、マシンガンを召喚。

(気づいていない……今だ!)

 ロケットグレネードを発射し、装甲を砕く。

「遅かったな!」

 そのまま12.7mm弾を叩き込み、全身の装甲とコアを貫いて沈黙させた。

(撃破確認……!)

 マシンガンを立て、グレネードの弾倉を交換する。

 そのとき、ヴァイスからの念話が聞こえた。

『龍野君! 近くにいるのね!?』

『ああ、裏側から入ったぜ!』

『70m直進の後にエスカレーターで上昇、急いで!』

『ああ!』

 ヴァイスからの命令を確認した龍野は、魔力を噴射する。

「今行くぜ、ヴァイス!」

 10秒程度でエスカレーターに到着した。だが、見たくないものを視界に捉える。

(ティラノサウルス!)

 まだこちらに気づいていない。

 だが、放置すれば戦死者が出る。

 龍野は一瞬の逡巡しゅんじゅんの末、撃破を選択した。同時にマシンガンを収納し、大剣を召喚する。

(まずは首筋……!)

 素早くレーザーを連射し、注意を引き付ける。狙い違わず、D型は龍野を睨み付けた。

「こっちだ!」

 だが龍野は加速し続け、脚を切断。魔力を纏った大剣に対し、装甲など無意味であった。

 『重量調節グラビティ』も発動していた。D型から紫煙が浮かぶ。

(重量0g――ボディプレスは実質封じた!)

 狙い通り、装甲をパージして高く跳躍する。

 だが、ために、天井に突き刺さる。身動きが取れなくなった。

「じゃあな、T-REX!」

 ビームを連射し、コアを貫通する。D型は爆散し、残骸の破片が雨のように降った。

『ヴァイス、待たせたな!』

 龍野は一言だけ告げると、エスカレーターを上り始めた。


     *


「おもしろいねえ……あの黒騎士。おっと、カメラを封じられちった」

 笑みを浮かべたスーツ姿の男が、どこかで龍野の様子をモニターしていた。

「そう思うだろう、トーマス?」

「ああ」

 男は異界電力の社長、トーマス=スマートフォンと行動を共にしていた。

「さて、黒騎士と遊ぶのは俺がやろう。トーマス、君は引き続きシステムの保全を頼むよ」

「わかった」

 簡潔な依頼を済ませると、男は扉の外に出た。


「フフフ……さて、いい加減に黙ってもらおうか。には」

 下卑た笑みを浮かべながら、男はコツコツと靴音を立てて歩いた。


     *


「よし、合流したな」

 龍野は8人と合流し、敵が薄れた正面入り口エントランスから脱出した。


「さて、ここからは手分けだ。じゃあな」

 拡声機能をオンにし、話しかける龍野。

「じゃあな」

 ハーゲンも、ゼクローザスに搭乗した状態で龍野に返す。4WDに乗ったネーゼ、リオネ、金森も、続けて挨拶を終えた。

 四人を見送った龍野達一行は、西側の発電所へ向かった。


「ここか」

「ええ」

「そうですね」

 5人は発電所入口にいた。警備員がいるか警戒したが、見えたのは血痕と死体だけだった。

「ここも虐殺が行われていたか……!」

 おそらくは、何種類ものサイボーグによる虐殺だろう。龍野は苦虫を噛み潰しながら、敷地内へ侵入した。

「それじゃあ、突入するぜ!」

 破壊されたゲートの隙間から、決着をつけるための一歩を龍野達は踏み出した。



現在の龍野の撃破スコア……121体(121,000点)


騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンの残弾(途中経過)


      マシンガン…… 98 + 200×5 発


      グレネード…… 3 + 3×4 発



作者による追伸


 有原です。

 いよいよ発電所に突入します。

 ちなみに、龍野達よりも若干早いタイミングで、ハーゲン達も突入しています。そろそろラナ(味方のR型)と出会った頃でしょうね。ああそうそう、この世界でのハーゲンは、ゼクローザスに乗ったまま突入しています。


 次回からは、二方向の視点を書いてみます。

 おや? どこからか青白い肌の少女の死体が……フフ。

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