マトリョーシカな悪夢(終盤その1)
「皆様、初めまして」
ヘリのパイロットとサブパイロットから敬礼を受け、鎧騎士の状態を解除したヴァイスがコンテナから出た。四人の来訪者の前に姿を現す。
「わたくしはヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティアと申します。この世界に存在する、ヴァレンティア王国の第一王女でございます。どうかお見知り置きを」
スカートの端をつまみ、一礼した。
それを受けた四人の内、ネーゼは同様に一礼し、他の三人は左膝を立ててひざまずいた。
「初めまして、ヴァイスシルト姫殿下。わたくしはネーゼと申します」
「初めまして、ネーゼ姫殿下」
「あら、わたくし達は初めてお会いしたのでは?」
「ええ、ネーゼ姫殿下。しかしながらその気品溢れる振る舞い、同じ身分の者であるわたくしにはお見通しでしてよ」
同じ“姫”として通じるものがあったヴァイスは、ネーゼの身分を感覚で理解していた。
「ふふ、お見通しでしたわね。では、改めて名乗りましょう。わたくしはアルマ帝国第一皇女、ネーゼ・アルマ・ウェーバー。よろしくお願いいたします、ヴァイスシルト姫殿下」
ネーゼに続き、リオネ、ハーゲン、金森も名前と身分を明かす。
そこに、ハナノがマグカップに入ったコーヒーを8つ持ってきた。
「皆様、インスタントではございますが……」
「ありがとうございます! ええと……」
ハーゲンが名前を知らず、戸惑う。
「ガロウダ・ハナノと申します。“ハナノ”とお呼びくださいませ」
次々とマグカップを受けとる、その場の面々。
「戻ったぜ」
遅れてきた龍野(鎧騎士状態を解除)が最後に受け取ろうとして、疑問に思った。
「あれ、ハナノさんのは?」
「ご心配には及びません。用意しております」
きっちり自分の取り分も確保している。手抜かりは無かった。
「だったら問題ねえな」
龍野はマグカップを受け取り、口を付けた。
三分後。
全員がマグカップを片手に、現状を打破する為の作戦会議を始めていた。
「それじゃ、ハーゲン。何か収穫はあったか?」
「ああ。これを見てくれ」
ハーゲンが一枚の書類を手渡す。
そこには、発電所の地形と――
『パラダイス・エンジン・システム』という単語が、大きく記載されていた。
「『パラダイス・エンジン・システム』……何だ、こりゃ?」
龍野が全員を代表し、疑問を投げかける。
「その概要については、わたくしから」
ヴァイスがいつの間にか準備していた大型の紙封筒から、一枚の書類を抜き取る。
「読み終えたら、次の方へ。口で申し上げるのは、憚られますから……」
不快な顔を浮かべ、書類を龍野に渡すヴァイス。
「……読んだぜ」
龍野が怒りを浮かべ、ハーゲンに手渡す。
「これは……。まさか、ハナダ氏か……!?」
「知ってるのか、ハーゲン?」
「知ってるも何も、彼には世話になった。その彼が、こんな事になってるとは……!」
「何やらご存知のようですわね、ハーゲン殿。後でわたくしと龍野君に、聞かせてくださらないかしら?」
ヴァイスが促すと、ハーゲンは「はい」と返しながら、ネーゼに書類を渡した。
五分後。
居合わせた全員が、恐怖または憎悪の感情を抱いていた。
「どうする?」
龍野が声を上げる。もっとも、この後の返答を予測した上で、だが。
「救出ね」
「救出するべきです」
「もともと救出するつもりだしな」
ヴァイス、ハナノ、ハーゲンが返した。
「そうだったな、ハーゲン。元々の目的が
五分間で概要を聞いた龍野とヴァイス。
「協力させていただきますわ。して、この後の調査は……うふふ、議論するまでもありませんでしたわね」
ヴァイスが笑いながら、封筒より別の書類の束を取り出す。
「どうやら、『パラダイス・エンジン・システム』への入り口となる発電所が二つ。それにこの地図を見る限り、部分的にとはいえ、内部通路も
「ええ、賛成です。しかし、この入り口の広さ……。少なくとも地上階部分は、私のゼクローザスでも通ることが出来るでしょう。ですので、私としては、東側に位置する発電所を希望します」
「構わねえが、どうやら地上階どころの話ではなさそうだぜ。確認できる全ての階において、天井までの高さは11m程度。ハーゲン、ゼクローザスの
「10.5mだぜ」
「なら、行動に関する心配はねえな。それに……ほぼ直通で、『パラダイス・エンジン・システム』に行けそうだぜ。ヴァイス、地図貸してくれ」
龍野は地図を受け取ると、エレベーターと思われる記号を指した。
「これ……使えねえか?」
「ああ。まあ、罠には気を付けるが……」
ハーゲンが返すと、龍野は高らかに宣言した。
「決まりだな。ハーゲン達は東側、俺達は西側から探索し、発電所の最深部を目指す!」
その言葉に、ヴァイスも続く。
「ええ! 協力して、ハナダ氏を救出しなくては!」
ハーゲンも、更に続いた。
「頼みますよ、姫様! そして龍野!」
士気が最高潮にまで盛り上がる。
龍野達は準備に動いた。
十分後。
G36K(ドイツのアサルトライフル)と予備弾倉のいくつかを渡されたハナノとハーゲン達四人は、指揮コンテナから出て一階へ向かう。龍野とヴァイスも、鎧騎士と化した。
そして、先頭の龍野が階段を降りようとした直後――
ヘリコプターとコンテナが、爆発によって吹き飛んだ。
「!? どういうこった!」
すぐさま屋上のヘリポートへ向かい、周囲を確認する。遅れて、耳障りな金属音が龍野達の鼓膜を揺らした。
「龍野君、右側!」
ヴァイスの指示で振り向くと、そこにはM型が浮いていた。
携帯しているミサイルランチャーは、煙を吐き出している。しかし、それだけではない。
R型4体に、支えられていたのだ。
「気を付けて! 魔術のほとんどが無効化されるわ!」
「だったら……! ハーゲン、7人を連れて1階に行ってろ! 俺も後で行く!」
マシンガンを召喚し、M型の挙動に警戒しながらも、龍野は引き金を絞るように引いた。
現在の龍野の撃破スコア……107体(107,000点)
※機能停止に追い込んでいないため、変動無し
※現時点では弾薬を消費していないため、変動無し
マシンガン…… 200 + 200×5 発
グレネード…… 3 + 3×5 発
作者による追伸
有原です。
ついに、龍野達の拠点が崩されました。
そして同時に、最終決戦の場へと足を踏み入れることとなりました。
いよいよ、クライマックスでございます。ゆえに、津波のようなサイボーグ達が、龍野達9人を襲うでしょう。
果たして、結末はどうなるのか……!
ところで、ネーゼ様のフルネームを教えていただけますでしょうか?
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