マトリョーシカな悪夢(中盤その3)

「一段落か……」

 龍野はエレベーターから見えるに警戒しつつも、鎧騎士の状態を解除して魔力補給剤を飲んでいた。

「そうも言っていられませんわね」

 龍野の言葉に返したのは、ネーゼだった。

「現状がいつまで続くかは、わたくしにはわかりません。しかしながら、黒騎士殿。急ぐべきかと」

「もちろんです、ネーゼ殿下」

 改まった口調で、龍野が返す。

 同時に、ヴァイスに待ち伏せの確認を依頼した。

『ヴァイス』

『何かしら、龍野君?』

『49階の敵の確認を頼む』

『わかったわ、五秒待って。……大丈夫よ、今は1体もいないわ』

『ありがとよ』

 龍野は念話を打ち切り、四人に話す。

「小休止は終わりのようですね」

 階数を表示するパネルを見ると、数字が"49"に変わった直後だった。

「では、引き続き敵の排除をいたします」

 素早く黒騎士の姿と化し、大剣を構える。

 同時に、エレベーターの扉が開いた。

「大丈夫なようですね。では固まったまま、こちらへ」

 龍野が四人を誘導し、別のエレベーターまで案内する。

『ヴァイス、50階のエレベーターまでどのくらいだ?』

『30mよ。次の曲がり角を右に』

『わかった……見つけたぜ。ナビ、ありがとよ』

 念話を打ち切り、四人に「これに乗りましょう」と告げた。


 50階に到着した五人は、即座に社長室へ乗り込んだ。無論、事前のヴァイスの調査によって敵が存在しないのを確認済みである。

「到着しました」

 龍野が案内した先は、社長室だった。

「ありがとよ、龍野」

「ありがとうございます、黒騎士殿」

「ありがとう、黒騎士さん」

「ありがとうございます」

 口々に礼を告げる四人。

「いえいえ。ああ、そうだハーゲン。何か情報を掴んだら、頼むぜ」

「わかった」

「では、私は一度補給に」

 龍野は一度、ヴァイスの元へ戻ることにした。


「ヴァイス、弾薬の補給をしに来たぜ」

「お帰り、龍野君。自由に持って行ってちょうだい」

 指揮用コンテナに戻るや否や、龍野は有りっ丈の12.7mm弾とその弾倉(容量の限界まで弾薬を装填そうてん済み)を持っていく。

「ありがとさん。それじゃ、引き続き頼むぜ」

「ええ。けれど、少し待ってほしいの」

「ん?」

「二分間だけ、話をさせて。龍野君」


 二分後。

「改めてありがとさん、ヴァイス」

 龍野は簡潔に礼を述べると、再びビル内に戻った。


「さて、収穫は十分だな。行きましょうか、ネーゼ様。それにリオネと金森さんも」

「ええ」

「行こう、ハーゲン」

「行きましょう」

 50階から撤退しようとする四人。

 しかし、行く手にゆらりと影が現れた。

「皆様、下がって……!」

 卵型の物体。E型サイボーグであった。

(どうする……!? まだ気づかれてはいないようだが……)

 素早く身を隠す四人。

 だが、E型は四人のいる箇所に近づいてきた。

(まずい、袋小路だ……!)

 まともな武装は拳銃ハンドガンかナイフしか無い。だが、あの巨体かつジェル状装甲に通じるかどうか。

 実質的に打てる手は、ネーゼによる防御が精一杯だ。それも、時間稼ぎ程度でしかない。

 ハーゲンは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


『龍野君、緊急事態よ!』

『何だ!?』

 ビルに戻る直前、ヴァイスからの連絡を受けた龍野。

『50階に敵が出現したわ! 恐らく、窓ガラスを破られてる!』

『クソッ! どこにいる!?』

よ!』

『近いな!』

 大剣を逆手さかてに構え、現場へ急行する。

『見つけたぜ!』

『排除して! 四人が危ない!』

『ああ!』

 念話を打ち切り、龍野は掛け声を上げてE型に突撃する。

「離れろぉおおおおおおおッ!」

 一閃。

 大剣による斬撃は、E型のジェル状装甲を易々と両断する。

(効いてるぜ……。だが、まだ行動停止には遠いな)

 龍野の予想通り、一応は健在のようだ。

(だが、遠からず動けなくなるな……おっと!)

 繰り出される右ストレート。軌道を見切り、軽く体を振って回避する。

(トドメだ!)

 龍野は出力を最小に絞りつつ、ビームを頭部に打ち込む。コアを破壊されたE型が、ジェルを流出させながら擱座かくざした。

「ふうっ……。無事ですか、皆様?」

「ああ、無事だ龍野。すまん、助けられてばかりだな……」

「だがな、ハーゲン。まだ敵がいる。おそらく、来る時に落とした飛行型(R型)と同型だろう」

「わかった」

「それで、だ。ヴァイスのいる指揮コンテナに、一度逃げてもらう」

「黒騎士殿、それは……?」

 疑問を投げかけたのは、ネーゼだった。

「俺のヴァイスからの言葉です。『一度皆様とお会いしたい』と。おっと、そろそろまずいな……!」

 物陰からビームを撃ち、侵入してきたR型を1体排除する。

「それに、作戦会議でもあります。“どうやって、あのオーロラを排除するか”という……!」

 足音が聞こえなくなったのを確かめ、四人を先導する。

「先に上へ行ってください! 私は足止めをします」

「わかりました。行きましょう、ネーゼ様、リオネ、金森さん!」

 ハーゲンが龍野以外の三人を導き、屋上へと進んだ。


『ヴァイス、お前にお客さんだ。指揮コンテナの中に入れてやってくれ』

 龍野は最小限の伝達事項を終えると、気配を察知したR型5体を相手取る。

「ここから先には行かせねえぜ」

 R型が各々銃を構え、龍野目掛けて全弾を撃ち込む。

 だが、障壁にきっちり防御されていた。

「無駄だぜ」

 龍野が話しつつ迫り、斬撃で2体をほふる。

 他の3体はラチェットを取り出すが、龍野の格闘と斬撃が速かった。

「はあっ!」

 体重を乗せたガントレット(装甲付き手袋)によるパンチは貧弱なR型の装甲を砕き、斬撃は一撃で胴体を両断する。

 あっという間に、3体のR型は戦闘不能状態になった。

「まあ、こんなもんか」

 そして龍野はまだコアが無事な機体を確認すると、念入りに大剣で両断した。

「それじゃ、俺もコンテナに戻るか」



現在の龍野の撃破スコア……107体(107,000点)


騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンの残弾(途中経過)


      マシンガン…… 200 + 200×5 発


      グレネード…… 3 + 3×5 発



作者による追伸


 有原です。

 次回は、ついにヴァイスと四人が出会います。

 そして、いよいよに足を踏み入れるのでしょうか……!?

 期待してお待ちくださいませ!

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