vs"T"(後編)

 本社の出入口にて。

 ヴァイスの魔術によって無力化された警備員達が、ずぶ濡れのまま集まり始めた。

「何だったんだ、あのねーちゃん……」

「俺達の武器を使わせる間も無しに、無力化してきやがった……」

「せめて生きてんのが救いか……ああっ、クソッ! バレたらまた、クソ上司にどやされちまう……」

「どう言い訳す……ん、何だ!?」

 警備員の一人が、視線をある方向に固定したまま動きを止めた。

「おい、何見て…………!?」

 警備員が何かを見つけた。

 


『龍野君!』

 龍野が巨大トラックとの距離を更に取っている最中、ヴァイスからのが飛んできた。


『申し訳ないのだけれど、であのトラックを破壊して!』


『いきなりどういうこった!?』

 ヴァイスは龍野の怒号に怯まず、深呼吸してから伝えた。

『コンテナを輸送しているヘリがあるのだけれど、このままだと竜巻に巻き込まれるわ!』

『コンテナ?』

『8番エリアでの話よ!』

 8番エリア。

 この単語を聞いて思い出した龍野は、『ああ!』と得心した。

『だとしたら、マズイな!』

『ええ! 頼むわね!』

 龍野はマシンガンを構えると、信号を送ってロケットグレネードを発射した。

(どうだ……?)

 だが、竜巻に遮られる。

(やっぱ、ダメか……!)

 マシンガンを仕舞い、大剣を召喚する。

「いくぜ…………っと!」

 雷が龍野を直撃した。

 だが、障壁で防御されている。

「っぶねぇ……! クソッ、弱点を探さねえとな……!」

 龍野は魔力を噴射し、竜巻の中に突っ込む。

「ぐっ……!」

 だが、そう簡単に侵入は許してくれない。砕けたタイルが障壁を削り、加えて暴風により、姿勢制御に失敗した。

(『重量調節グラビティ』! 体重を5tに増加しろ!)

 吹き飛ばされながらも、強制的に増加させた体重で強引に着地。同時に解除。

(これじゃ、5分で間に合うかわかんねえな……!)

 龍野は短期決戦を狙い、剣を竜巻の内側のトラックに向ける。

 トラックもまた、龍野をき殺さんと突進する。

「単調だぜ……!」

 龍野は魔力を噴射しながら、剣先に魔力を凝縮させる。

(今だ……!)

 残った6つのタイヤを、一薙ぎで完全に使用不能にした。いや、貫通して12個のタイヤを完全に破壊したのだ。

(これで動けねえはずだ……! だが、弱点が見つかんねえな……。やっぱ、もう一度突っ込むしか……! 『重量調節グラビティ』!)

 龍野は再び体重を5tに増加し、魔力を全開に噴射して飛翔する。

「飛べぇえええええッ!」

 強引な噴射により、強引に大重量と化した自らの体を飛翔させる。

「よし、飛べた……! 覚悟しやがれ……!」

 速度は大して出ていない。

 しかし飛べさえすれば、そんなものは今の龍野には必要無かった。

(突っ込む……!)

 竜巻の中に突っ込む龍野。

「ううあぁああああああッ!」

 ヤスリと化した竜巻に障壁を攻撃されるが、大重量と全開の出力で突破を試みる。

「なめんじゃ、ねぇえええええッ!」

 龍野が大剣を振るい、視界に捉えた塔の部分にビームを発射する。

(ダメだ、浅い。もう、ちょっと……!)

 龍野が更に出力を上昇させ、竜巻に抗う。


『龍野君!』


 その時、ヴァイスの念話が聞こえた。

『お願い、あの暴風をめて……!』

 澄んだソプラノの声。龍野が聞き慣れた、美しい声。

 その声は、激励となって龍野を奮い立たせた。

『ああ、……!』

 龍野は覚悟を決め、肘の部分からも魔力を噴射させた。

「うおぉおおおおおおおッ!(見えた……!)」

 龍野は塔の真上に位置し、内部に狙いを定める。

(これで、どうだ……!)

 ビームを放ち、塔の底部を貫通する。

 やがてギュゥウンという音が、龍野の耳朶じだを叩いた。

「止まった……のか?」

 塔の回転は徐々に弱まっていき、やがて動きを停止した。

「ふうっ、終わったぜ……!」

 龍野は『重量調節グラビティ』を解除し、ヴァイスの元へ急行した。


「終わったぜ、ヴァイス」

「ありがとう、龍野君」

 言葉を交わし合い、互いの無事を喜ぶ二人。

 しかし、龍野はまだ鎧騎士の状態を解除していなかった。


 やがて、バラバラバラというローター音が近づいた。


「さて、ヘリが到着したぜ」

 龍野が呟くと同時に、パイロットとサブパイロットがヘリから降りた。ヘルメットを脱いで、ヴァイスに敬礼する。

「ありがとうございます」

 ヴァイスは労いの言葉で、敬礼へ返した。

 だが、すぐに表情を引き締め、空をした。


「あのオーロラ……随分とはっきり、見えませんこと?」


 そう。

 この正体不明のオーロラに、龍野達は疑念を抱き、0番エリアの住民はざわついていた。

「ちょっと調査してくる必要があるな。行ってくるぜ」

 龍野はそのために、鎧騎士の状態を保ったままであった。魔力を噴射し、オーロラまで飛行した。


「うわあ……不気味な色してやがるぜ」

 オーロラの近くまで到達した龍野。

「荒っぽいが、確認のためだ!」

 大剣を召喚し、斬撃を食らわせる。だが、傷一つ付いていない。

「だったら……!」

 大剣に魔力を凝縮させ、ビームとして放つ。

 しかし、やはり傷一つ付いていない。

「やれやれ……。これ、どうやって報告するんだ……」

 龍野はぼやきながら、ヴァイス達の元へ帰還した。


 オーロラの調査開始から五分後。

「最悪の知らせだ」

 龍野はヴァイス、ハナノ、パイロット、サブパイロットの四人に、神妙な声音こわねで伝えた。


ぜ、俺達」


 7月某日、午前10時35分。

 龍野達が調査のために足を踏み入れてから、25時間35分後。


 龍野達を含めた“反撃者”は、全員が異界電力ベイエリアに閉じ込められた。




今回の戦闘における犠牲者


    社員……0人(0点)


   警備員……0人(0点)


他サイボーグ……0体(0点)


    合計……0人(0点)



現在の龍野の撃破スコア……38体(38,000点)


騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンの残弾(途中経過)


      マシンガン…… 55 + 200×3 発


      グレネード…… 2 + 3×2 発



作者による追伸


 有原です。

 珍しく死亡者0でしたね。ただ、それは嵐の前の……フフ。次回をご期待くださいませ。


 余談ですが、2話に姫様(ヴァイス)のステータスを追加いたしました。

 よろしければご一読くださいませ。

URL: https://kakuyomu.jp/works/1177354054886380821/episodes/1177354054886440743

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