vs"H"(後編その1)

 翌朝。

 箱を手にしたヴァイスは、龍野のところまで戻って来た。

「戻ったわ、龍野君」

「ああ。おかえり」

 龍野が迎えると、ヴァイスは早速箱を開け、中身を取り出した。

「それは?」

「うふふ。“追加のドライブ”といったところね」

 ヴァイスが取り出したのは、大粒の宝石が取り付けられたネックレスだった。

「ここまで準備を整えれば……。そうだ龍野君、銃(マシンガン)の弾倉、交換したかしら?」

「いや、まだだ。今するぜ」

 マシンガンを召喚し、本体、及びグレネードの弾倉を交換。装填作業を終えると、再び異空間に収納した。

「よし、今度こそ……!」


「いえ、まだ準備は終わっておりません。お二方、私をお忘れでございます」


「ハナノさん!?」

「ハナノ様!?」

 声のぬしはこの家のあるじ、ガロウダ・ハナノであった。

「このガロウダ・ハナノ、微力ながらあなた方のお力添えをしたく、馳せ参じた次第でございます」

「いや、待ってください! そりゃあハナノさんの気持ちはわかりますけど、危険すぎます!」

「いえ、待ちなさい龍野君。私の近くにいさせるわ。いいですわよね、ハナノ様?(私には、一切の危害が加えられないのですからね)」

「ええ」

「だそうよ。それでも不安かしら、龍野君?」

「いや、そこまで言うなら……異存は、ねえぜ」

 龍野は折れ、ハナノの同行を認めた。

「それでは、ハナノ様。唐突な質問をお許しくださいませ」

「構いません。どのようなご質問を?」

 許可を貰ったのを確認すると、ヴァイスが口を開いた。

「自家用車など、ございますでしょうか?」


 十分後。

 ハナノの自家用車に乗せてもらった二人は、まずヴァイスのネックレスが投下された橋に向かった。

「着きました」

 橋の近くには、巨大なコンテナが投下されていた。

「では、私は使命を果たします」

 ヴァイスは言葉を唱え、ネックレスを握りしめて目を閉じる。


 直後、純白の甲冑に全身が包まれた。どことなく、龍野の甲冑に似ていた防具に身を包んだヴァイスは、うやうやしく一礼した。


「以降は、この姿でやり取りいたします。よろしいですね、ハナノ様。そして、龍野君?」

「ええ」

「いいぜ」

「では、ハナノ様はこのコンテナの中に。龍野君は、あの二体を持ってきてちょうだいな」

「かしこまりました」

「あいよ」

 龍野は車に積んでいた機体を取り出すと、ヴァイスの元まで運んだ。

「ありがとう、龍野君」

「いや、これくらいは簡単だぜ。それで、俺は何をすればいい?」

「うふふ。それはね……」


 十分後。

 龍野はプレハブ造りの工事村付近で、ひたすら指示を待っていた。

『ヴァイス、そっちはどうだ?』

『現在、鹵獲ろかくしてくれた二体から情報をサルベージしているわ。まだ、その場で待機していて。ああそうそう、言っておくけれどハナノ様は無事よ。心配しないでちょうだい』

『わかった、ありがとさん(さて、どうするか……)』

 龍野は念話を打ち切ると、待機を続けていた。

(しっかしよお、どういうワケか……最後にN型を捕まえてから、十数時間はサイボーグに出くわしてねえな。“嵐の前の静けさ”ってやつか……? それにしても、妙な感覚だぜ……)

 だが、分析や疑問点の確認は忘れていなかった。


 一方、ヴァイスはコンテナ内で鹵獲ろかくしたN型のデータをサルベージし終え、情報を分析しようとしていた。

「これではないわね……。単なる記録映像には用は無いわ。別の映像を……」

 だが、求める情報はそう簡単には見つからなかった。

「恐れ入ります、姫殿下。その機体を一体、私に預けていただけませんか?」

「ハナノ様!? え、ええ、構いませんが……」

 ヴァイスは驚愕の表情を浮かべながら、ハナノに機体を預ける。

「ありがとうございます。ふむふむ……」

 そのまま三十秒ほど、機体を眺め続けるハナノ。

「このデータですが、操られた形跡があります。けれどそれにより、綻びも生じた様子。どうでしょう、重点的に調べてみませんか?」

「はい、やってみます(一体何者なの、この殿方は……? 私が二時間ほどかけそうな調査を、たったの三十秒で……!)」

 ヴァイスはハナノの提案に従い、“綻び”からデータをサルベージしようと試みた。

「見つけました……! ありがとうございます、ハナノ様……!」

「いえいえ。大したことはしていません」

 ヴァイスはデータのサルベージを完了させると同時に、龍野に連絡を入れた。

『龍野君、聞こえるかしら?』

『何だ?』

『現在地から、まっすぐ205m進んでちょうだい!』

『あいよ』

 龍野は立ち上がり、ヴァイスの指示通り進んだ。



現在の龍野の撃破スコア……15体(15,000点)

※戦闘が無いため、変動無し


騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンの残弾(途中経過)


      マシンガン……200 + 200×2 発


      グレネード…… 3 + 3×2 発

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