vs"H"(前編)

「すげえ重機の音だな」

「ええ。今も工事中みたいね」

 エリアに立ち入って早々、耳をつんざく音がひっきりなしに響いていた。

 もっとも、今二人のいるエリアは屋敷が並ぶ住宅街だったり、大小、そして新旧様々なビルが見えた。

「あまり見るものは無さそうだな。調査が仕事とはいえ」

「ええ、そうね。けれど、一つだけ規模が違う屋敷があるわ。見るだけ見てみましょうか」

「そうだな」

 二人はおよそ50mを歩き、巨大な屋敷の前に立った。


 屋敷の前には、「お客様歓迎」の看板があった。

「随分と広い懐の持ち主だろうな、この屋敷のオーナーは」

「ええ」

「だが、そろそろ夕方だな。あんまり時間は取れねえ。先にここの調査を終えて、それからお邪魔させてもらおうか」

「そうね(もっとも、0番エリアの本社ビルの一室を宿やどとして貸与されているのですけれどね……)」

 二人は屋敷を後にし、エリアの内側へと足を踏み入れた。


「工事中なのは、ここね」

「ああ。俺達が踏み入る場所じゃねえし、特に収穫もなさそうだな」

 期待外れもいいところであったエリアの内側を、二人はすぐに後にした。


 五分後。

 龍野は玄関のチャイムを鳴らし、屋敷の住人に呼びかける。

「もしもし、どなたかいらっしゃいませんか?」

 すると、インターフォンから声が響いた。

「はい、どちら様でしょうか?」

 男性の声だった。

「俺……私達は、旅をしているものなのですが、この辺りの宿を教えていただけないか、と思いまして」

「ああ、それならうちへどうぞ」

 インターフォンの声は切れ、代わりに西洋風の門がひとりでに開いた。

「“入れ”ってことだろうな」

「ええ。行きましょ、龍野君」

 二人は意を決し、門の内側へと足を踏み入れた。


「初めまして、旅のお方」

 中にいたのは、インターフォンの声の主であった。

「初めまして。私はヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティアと申します」

「初めまして。私は須王すおう龍野りゅうやと申します」

 二人が自分の名前を名乗る。

 すると、男性も名乗り返してくれた。

「初めまして。私はガロウダ・ハナノと申します」

「ハナノ、様……」

「ハナノで結構ですよ。姫殿下」

 どうやらハナノは、ヴァレンティア王国の現国王の娘であるヴァイスを知っていたようだ。

「大したものはお出しできませんが、どうかくつろいでいってくださいませ。部屋には、後ほどご案内いたします」

 ハナノは「では」と一礼すると、自室へと向かった。


「ふう。ここにはサイボーグどもはいねえようだな、ヴァイス」

「龍野君、油断は禁物よ。どうなるかは、まだわからないもの」

「そうだな……ん?」

 屋敷の前に、光るものが見えた。


 それは炎だった。着弾し、庭の草花を燃やし尽くそうとしていた。


「させるかよ! ヴァイス!」

「ええ!」

 龍野が窓を開けると、ヴァイスは素早く魔法陣を展開。

 炎の存在する箇所目掛け、水流を撃ち放った。

「消えた、みたいね……」

「まだだぜ。をとっちめなきゃ、な」

 龍野は窓から飛び出しながら、鎧騎士と化した。そして拡声機能をオンにし、呼ばわった。

「おい、人様の庭に火ぃ着けようとしてんじゃねえぞ!」

 だが、返答は炎弾が飛んできたことだった。

 龍野は避けも防ぎもせず、ただ立ったまま――障壁で、無効化した。

「それが答えか、てめえ!」

 龍野は大剣を召喚し、炎弾が飛んできた辺りにビームを放つ。命中したらしく、何秒経っても次の炎弾は発射されなかった。

『ヴァイス、反応は消えたか?』

『いえ。けれど、。50m程進めば、見えるわよ』

『ありがとさん』

 龍野は指示に従い、放火魔の正体を見る。

『おい……!』


 それは、白い肌を持った男だった。


「クソッ……俺は、最強のはず、だったのに……!」

「他人の守りも突破出来なくて、何が最強だ。それよりもてめえ、どうして庭に火を放った?」

「ん、あれ……? 俺は、何をしていた、んだ……?」

「てめえ、何支離滅裂な事言って……!」

 龍野は更に詰め寄るが、男の目を見てしまった。


 を。


「ッ……」

「おい!」

 そのまま男はこと切れてしまった。

 龍野は男の亡骸を、手近な窪みに放り投げた。人様の敷地だが、いつまでも抱えているわけにもいかない以上、仕方のない事だった。


「戻ったぜ」

 鎧騎士の状態を解除した龍野は、ヴァイスに騒動の顛末を報告した。

「正当防衛ね。大丈夫よ龍野君。今更ながら、魔術の使用は全面的に認められているから」

「わかった。けれど、あの男の目……生気が抜けてたぜ。ありゃあ、あいつ自身の意思による行動とは思えねえ」

「あら、私も似たような目を見たわよ。4番エリアで」

「ホントかよ!? だったらこうしちゃいられねえ、作戦会議と……」

「その前に、龍野君。主人からのもてなしを受けるのが先よ」

 ヴァイスに制止された龍野は、美味しそうな料理を抱えて出てきたハナノを見た。



現在の龍野の撃破スコア……15体(15,000点)

※倒した敵がため、変動無し


騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンの残弾(途中経過)


      マシンガン……200 + 200×3 発


      グレネード…… 3 + 3×3 発

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